約 2,188,128 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3742.html
貴船に降り立った昌浩たちを、無数の妖怪が取り囲んだ。猿に鳥に牛にヤギ、種類も様々な妖怪たちが大地に、木の上にひしめいている。 「大歓迎だな」 「やはりここで間違いない」 もっくんが紅蓮へと変化しながら言った。 ここは本宮のやや開けた場所だ。しかし、木々が多いので、迂闊に炎を使えない。雨が降らず乾燥しているので、下手をすると貴船が全焼してしまう。 「窮奇の姿はないな」 人間の姿に変化したザフィーラが周囲を見渡して言った。 「ならば、おびき出すまで」 シグナムがレヴァンティンを構える。 「臨める兵(つわもの)闘う者、皆陣列(やぶ)れて前に在り!」 昌浩の指先から魔力で出来た白銀の刃が放たれる。 それを合図に、運命をかけた一戦が始まった。 以前と同じ草原に出たクロノたちを、再び十二神将が出迎えた。 青龍、白虎、太陰、玄武、六合の五人だ。 「今日も引くつもりはないようだな」 青龍が険呑に言った。 「無論だ」 「剛砕破(ごうさいは)!」 青龍の手から本気の一撃が放たれる。光弾が地面に当たり、激しく土砂を巻き上げる。 クロノが思わず目を覆うと、砂のカーテンを突き破って太陰が現れる。 「またお前か!」 「またって何よ!」 クロノと太陰が空中で激しい接戦を繰り広げる。 「……」 「……」 ユーノは玄武と対峙していた。なのはの援護に行きたいのだが、目の前の敵を無視もできない。 とにかく足止めしようと、ユーノがバインドの魔法を放つ。 「波流壁!」 同時に玄武が水の結界を作り出す。ユーノのバインドが玄武を拘束し、玄武の結界がユーノの動きを封じる。 「しまった!」 ユーノは転移を試みるが、結界はそれすらも阻む。一方の玄武は涼しい顔で拘束されている。 お互いに完全に手詰まりだった。 その横では、アルフと六合が肉弾戦を演じている。 そして、 「はあああああああ!!」 「どおりゃああああ!!」 青龍と白虎が気合の声と共に、攻撃を繰り出す。 「もういやー! なんでこの人たち、こんなに怒ってるのー!?」 なのはとフェイトは男二人から必死に逃げていた。前回にも増して迫力が増している。 青龍たちが、なのはたちを執拗に狙うのは、放たれる魔力から、二人が最強の敵だと察したからだ。 飛べない青龍では、逃げられると追いきれない。それで白虎と連携することにした。白虎が空から、青龍が地上から攻める。 幼い外見に惑わされない。真っ先に全力で潰す。青龍たちはそう決めていた。 その様子を、晴明は部屋でシャマルと共に眺めていた。 「だんだん可哀想になってきたのう」 晴明としては足止めさえしてくれればいいのだが、血の気の多い青龍は完全に本気だ。 半泣きで逃げ回る女の子二人に、晴明は同情を禁じ得ない。 「晴明さんは、どうしてここまで私たちに協力してくれるんですか?」 シャマルが疑問をぶつける。窮奇退治は利害の一致としても、時空監理局の追手まで防いでくれるのはやり過ぎだと思う。 「お主たちが悪い人間には見えぬからよ」 晴明は人を食った笑みを浮かべる。 「それだけですか?」 晴明はそっと溜息をついた。今は十二神将のほとんどが出払っている。本音で語っても問題あるまい。 「わしの後継者は昌浩と決めておる。十二神将もいずれあやつが受け継ぐだろう。しかし、十二神将のほとんどが昌浩の力を疑っている。中には絶対に認めないと息巻いている者もいるほどじゃ」 「それで窮奇退治ですか?」 「そうじゃ。わしの助けなしで、窮奇を倒せば、昌浩の実力を認めざるを得まい。その後、気に入られるかどうかは、昌浩次第じゃ」 晴明が窮奇退治に本腰を入れていないのは明らかだったが、そんな理由とは思わなかった。 振り返ってみれば、十二神将が全員一緒のところを見たことがない。まさかそこまで仲が悪いとは。 (私たちは仲良しでよかった) たった四人しかいないヴォルケンリッターの仲が悪かったら、目も当てられない。 「でも、私たちの手助けはいいんですか?」 「どこの馬の骨ともしれない連中と協力し目的を遂げる。それはそれで度量の広さの証明になる」 「馬の骨は酷いですよ」 「やや、これは失敬」 二人して朗らかに笑う。 利用できるものはすべて利用し、いくつもの目的を同時に遂げる。まさに老獪。それでいて根底にあるのは、悪意ではなく孫に対する深い愛情だ。 (家族っていいな) これまでは漠然と家族というものを考えてきた。しかし、昌浩の家庭を見て、家族を本当に理解できた気がする。 帰ったらきっと、はやてともっといい関係が築けるだろう。シャマルは心からそう思った。 貴船の戦いは苦戦が続いていた。 延焼の危険があるので、広範囲攻撃ができないのだ。これだけ激しく攻められては、昌浩も大技を使う余裕がない。 一匹ずつ倒すしかないので、数に劣る昌浩たちは不利だった。 「くそ、この前にみたいに結界に引きずり込んでくれれば」 「泣き言を言うな。目の前の敵に集中しろ」 苛立つヴィータをシグナムがたしなめる。 「でも、このままじゃ防ぎ切れねぇよ!」 「危ない、ヴィータ!」 昌浩がヴィータを抱えて地面を転がる。鋭い爪が昌浩の肩を軽く掠める。 ヴィータはすぐさま体勢を立て直し、アイゼンで猿の妖怪を叩きつぶす。 しかし、その一瞬の攻防で、昌浩たちは紅蓮たちから引き離されていた。 紅蓮たちと昌浩たちの間に、妖怪の群れが殺到する。完全に分断された。 「やべぇ! 逃げるぞ!」 合流は無理と判断したヴィータと昌浩は、敵の包囲網の一角を破り山林の中へと入って行く。 「裂破!」 「くらえー!」 山道を駆け降りながら、昌浩の放つ術が、ヴィータの鉄球が、追いすがる妖怪を吹き飛ばす。 ヴィータ一人なら飛べばいいのだが、昌浩を置いてはいけないし、昌浩を背負って飛べば前回の二の舞だ。 脳裏に、刃に貫かれた昌浩の姿が蘇る。あんな思いは二度とごめんだ。 「ヴィータ!」 昌浩の声に、ヴィータは我に返る。 二人は川べりまで追いつめられていた。 「飛び越えるぞ!」 ヴィータが昌浩の首根っこをつかむ。 ヴィータと昌浩の体が宙に浮き、川を飛び越えようとした瞬間、川から伸びた触手が二人の足をつかんだ。 「しまった!」 振りほどく暇もなく、触手は二人を川の中へと引きずりこんだ。 「昌浩、とっとと起きろ!」 背中に衝撃が走り、昌浩は痛みで覚醒する。 うつ伏せに倒れた昌浩の背中を、ヴィータが踏みつけている。どうやら蹴り起こされたらしい。 「ヴィータ……」 「文句は後だ。見ろ」 川の中に引きずり込まれたはずなのに、そこは巨大な宮殿の中だった。 太い柱がいくつも立ち並び、本来なら玉座か祭壇があるべき場所には、巨大な翼を生やした虎が座っていた。 「窮奇!」 「我が城にようこそ。気に入ってもらえたかな」 窮奇が喉の奥で笑う。ここは窮奇が作り出した異界の中だった。 「一人で来るとはいい度胸じゃねえか! ぶっ潰してやる!」 ヴィータがアイゼンを振りかぶる。 「ふっ」 窮奇の魔力が大地を割る。そこから生じた不可視の壁がヴィータと昌浩を隔てる。 「ヴィータ!」 昌浩が壁を叩く。壁の向こうではヴィータがアイゼンを振りまわしているが、壁はびくともしない。音も完全に遮断している。 「貴様、我の配下にならぬか?」 「お前は彰子を殺そうとしている。そんな奴の仲間になんて、なるものか!」 「それは誤解だ。我はこの傷を癒すため、力ある者を欲している。だが、少しばかり血を貰うだけで、命まで奪うつもりはない」 窮奇が前足で地面を叩くと、彰子の姿が空中に浮かびあがる。 自室らしい場所で、彰子は熱に浮かされていた。その手には傷があった。 「彰子!」 「あれは我が配下がつけた刻印。決して癒えぬ傷、消えぬ傷」 傷からわき出す瘴気が、彰子の体をむしばんでいた。 「この苦しみから解放してやれるのは、我だけだ。それに貴様、この娘が欲しいのではないか?」 「!」 「我なら、その願いを叶えられる。この娘をさらい、この異界で幸せに暮らすといい。誰にも邪魔されぬ」 苦しむ彰子の姿が消え、代わりに幸せそうに笑う昌浩と彰子の姿が映し出される。 昌浩は凍りついた眼差しでそれを眺める。 窮奇がゆっくりと前に進み出る。昌浩の肩の傷から出た血が、手に伝い落ちている。窮奇は長い舌でそれを舐めとった。 窮奇の首の傷がみるみる塞がっていく。 昌浩が落ちるのは時間の問題だ。窮奇は自らの勝利を確信した。 「昌浩、昌浩!」 ヴィータが全力で壁を叩く。こちらの声は届かないが、向こう側の声はすべてこちらに届いていた。 「シャマル、転送を! シャマル!?」 シャマルとの通信が途絶している。ヴィータは完全に孤立していた。 窮奇が勝ち誇ったように目を細める。ヴィータの眼前で、昌浩が闇に落ちる姿を見せつけようとしている。 「駄目だ、昌浩!」 ヴィータが叫ぶが、昌浩は茫然と立ったままだ。 諦めかけた好きな人を手に入れられるのだ。抗えるわけがない。 窮奇の傷が癒え、魔力がますます強くなる。 (もう駄目なのか?) ヴィータが膝を屈しかけた時、昌浩が口を開いた。 「さあ、返答やいかに?」 「……断る」 静かに、だが、はっきりと昌浩は言った。 「何故だ!?」 窮奇が狼狽する。 「ここには蛍がいない! だから、駄目なんだ!」 今にも泣き出しそうな顔で昌浩が叫ぶ。 一緒に蛍を見に行くと約束した。その約束も果たせずに、自分の思いだけを押し付けることはできない。 (そっか。お前はそういう奴だったよな) 自分の身を顧みず、他人の幸福を願える存在。ただそれだけの為に全力を尽くす少年。そんな少年だからこそ、ヴィータは惹かれたのだ。 窮奇の動揺が結界にも伝わったのか、表面がかすかに揺らめく。 「アイゼン!」 ヴィータ渾身の一撃が、結界を粉砕する。 「ヴィータ!」 「その化け物をとっとと倒すぞ!」 「おのれ! 小癪なガキどもが!」 「ガキだけじゃないぞ」 天井に裂け目が走り、シグナム、ザフィーラ、紅蓮が姿を現す。 「貴様の配下はすべて倒した。後はお前だけだ」 紅蓮が全身に炎をまといながら言った。 よほど激しい戦いをくぐりぬけたのか、全員傷だらけだ。だが、その体からは活力がみなぎっている。 「ならば、貴様ら全員喰らってやるわ!」 窮奇の全身から紅い稲妻が放射される。 ザフィーラの展開したバリアがそれを防ぐ。 「鋼の軛!」 ザフィーラの咆哮と共に、地面から無数の鋭い棘が生え、窮奇の体をズタズタに切り裂く。 「はあああああああ!」 紅蓮の体から炎の蛇が放たれる。蛇は龍へと姿を転じ、白銀に輝き、窮奇を炎に包む。 「シュツルムファルケン!」 レヴァンティンが弓へと形を変える。放たれた矢が、窮奇の眉間を正確に射抜く。 「ギガントシュラーク!」 巨大化したグラーフアイゼンが窮奇の角を叩き折る。 「舐めるな! この程度で我が倒せるものか!」 満身創痍になりながらも、窮奇の魔力は衰えない。大地が裂け、瘴気が噴き出す。 「化け物め」 あの化け物を倒すには、もっと力がいる。 『昌浩君。これを使って!』 空間に出来た裂け目のおかげで、シャマルとの交信が回復する。昌浩の足元に緑の魔法陣が広がり、中から一振りの剣が浮かび上がる。 『晴明さんが鍛えた降魔の剣よ』 昌浩は剣を手に取る。強い力を感じる。 (駄目だ。これでもまだ足りない) 昌浩はこれまで培った知識を総動員する。 自分だけの力で足りなければ、どうすればいいか。 神の力を借りればいい。ここは龍神の住まう貴船。そして、神の力を借りる最もいい方法。 それは、 「この国の言葉でお願いする、だ!」 昌浩が走る。早口で呪文を唱えながら。 窮奇の振り上げた前足をザフィーラが両腕で受け止める。 「行け!」 瘴気を避け、ヴィータが無数の鉄球を打ち出す。 「邪魔はさせねぇ!」 窮奇が怯み、翼を開く。飛んで逃げようとしているのだ。 「させん!」 シグナムが右の羽根を切りつけ、紅蓮の炎が左の羽根を焼く。 窮奇がでたらめに魔力の刃を放つ。それらが昌浩の足を、肩を掠め、血を流させるが、昌浩は止まらない。 駆け抜けた昌浩が剣を突き出す。肉を貫く手ごたえ。呪文はすでに完成している。 「雷電神勅、急々如律令!」 龍神が封印から解き放たれ、純白の雷を窮奇に落とす。 「ぐぬあああああああああああ!」 窮奇が断末魔の悲鳴を上げる。雷によってその身を焼かれ、体内で炸裂した魔力が体を砕く。大妖怪、窮奇の最後だった。 「終わった」 昌浩がその場にへたり込む。魔力はもう空っぽだ。立ち上がる気力もない。 窮奇が死んだことで、世界が音を立ててゆっくりと崩れていく。 「昌浩」 ヴィータが心配そうに声をかける。 様子を察したシグナム、ザフィーラ、紅蓮が一足先に元の空間に戻る。 滅びゆく世界には、二人しかいない。 「……俺さぁ、窮奇の誘いに乗りかけたんだ」 「…………」 「もし彰子と一緒に暮らせるなら、それも悪くないって」 昌浩の声はかすれていた。何かを堪えるように上を向いている。 「ヴィータたちとも約束したのに、窮奇を倒すって、なのに……」 昌浩が静かに嗚咽を漏らす。 ヴィータはこういう時、慰める言葉を持たない。だから、こう言った。 「私は何も聞いてない。だから、好きにしろ」 ヴィータが昌浩と背中合わせで座る。 「ごめん。それから、ありがとう。ヴィータ」 昌浩は静かに泣いた。世界が消えるぎりぎりまで、ヴィータは一緒にいてくれた。 言葉はなくとも、ただ背中から伝わる温もりが、昌浩は嬉しかった。 しとしとと雨が降る。 蘇った龍神が盛大に雨を降らせていた。 封印を解いてくれたお礼に、龍神は昌浩たちの傷を治してくれた。 一晩経って、昌浩たちは再び晴明の部屋に集められた。 「皆、本当にご苦労だった。特にシグナム殿、ヴィータ殿、シャマル殿、ザフィーラ殿には、この晴明、どれだけ感謝しても足りません」 「いえ、我々も目的を達成できました」 窮奇の魔力を回収しても、闇の書は完成しなかった。しかし、そのページの大半は埋まっていた。これならば、主はやても目を覚ますだろう。 「さて、彰子様についてなのだが」 昌浩の表情が暗くなる。結婚の日取りが決まったのだろうか。 「うちで預かることになった」 「はあ!? どういうことですか、じい様」 「彰子様にかけられたのは、決して解けぬ呪い。このまま天皇の元に嫁げば、天皇にも呪いの穢れが及んでしまう。そんなことできるわけなかろう」 「じゃあ、結婚は?」 「彰子様の異母妹で、そっくりな方がいる。その方を彰子様として嫁がせるそうじゃ」 「そうですか」 昌浩は気が抜けたように座り込む。 昌浩の一念が、決まったはずの運命を変えたのだ。しかし、当の昌浩にその実感はない。 「彰子さまの呪いは、常に陰陽師が側にいて清め続けるしかない。そこでうちで預かることになったのじゃ。それにしても昌浩や」 晴明は扇で顔を覆って、泣き真似をする。 「じい様は情けないぞ。窮奇を倒すのに夢中で、彰子様にかけられた呪いを綺麗さっぱり忘れるとは。何たる未熟。これは一から修行のやり直しじゃのう」 昌浩は喉まで出かかった怒声を飲み込む。腹は立つが、今回ばかりはさすがに言い返せない。 「よ、よかったじゃないか、昌浩」 ヴィータがばしばしと背中を叩いた。わざとらしいほどに明るい笑顔だ。 「ありがとう。でも痛いよ、ヴィータ」 「さて、目的も果たしたし、帰るぞ、みんな」 ヴィータが静かに立ち上がる。 「えっ? もう少しゆっくりして行っても」 「すまないな、昌浩殿。我らも主の容体が心配なのだ」 シグナムも立ち上がって言った。 「早くアイスやケーキを食いたいぜ」 「ガスコンロが懐かしいわ」 シャマルが肩を回しながら言った。家事は嫌いではないのだが、現代文明に慣れた身に火打ち石から火を起こすのは重労働だった。他にも洗濯や裁縫、家事だけで一日がかりだ。 「そっか。もうお別れなんだ」 「なんて顔してんだよ、昌浩。私たちと別れるのが、そんなに寂しいのか?」 「べ、別に寂しくなんか……」 「へっ。お前がどうしてもって言うなら、会いに来てやってもいいぜ?」 「素直じゃ……痛!」 からかおうとしたシャマルの足をヴィータが踏みつける。 「本当? 絶対また会おうね。約束だよ」 「しょうがねぇな」 腕組みしながら、ヴィータが言った。 庭に出た四人は時空転移を開始する。 「あ、そうだ」 思い出したように昌浩が言った。 「この前の占い、ようやくわかったよ。これからヴィータたちにはとてつもない困難が立ちはだかる。でも、大丈夫。信じて頑張っていれば、きっと君たちを助けてくれる人が現れる。道は開ける、だって」 「なんだよ、それ」 ヴィータは苦笑する。漠然としていて、まったく参考にならない。 「でも、まあ、覚えておいてやるよ」 「みんな、本当にありがとう!」 ヴィータたちの姿が空の彼方に消える。 昌浩はいつまでも手を振っていた。 「ヴォルケンリッターたちが移動を開始しました」 アースラでも、その動きは感知していた。 「数は?」 「四です」 「つまり、ここには闇の書の主はいなかったということでしょうか?」 「そうね。こちらが追っているのを知りながら、主の元を離れるとは考えにくい。ここには魔力の収集に来たと見るべきかもね」 クロノの疑問にリンディが答える。二度目の戦いでも、クロノたちは撤退せざるを得なかった。 クロノたちが戦った相手は闇の書がらみではないようだ。彼らは一度としてベルカ式の魔術を使わなかった。現地の協力者なのだろう。 できれば、もう少し調査をしたいのが本音だが、学校があるなのはたちの手前、あまり長く滞在できない。 なのはたちにとっても、早くこの時空を離れた方が精神衛生上いいだろう。あれ以来、なのはとフェイトは毎晩、青龍と白虎に追いかけられる悪夢を見ているらしい。 アースラはヴォルケンリッターを追って、元の時空へと進路を取った。 エピローグ それからしばらくして、闇の書事件は解決した。 闇の書は元の夜天の書へと戻り、はやての足も治った。 その過程で、はやては悲しい別れを経験したが、今はなのはとフェイトという新たな友を得て、幸せに暮らしている。 昌浩の占いに出ていた助けてくれる人たちとは、なのはたちのことだったのだ。まさか時空監理局と和解する日が来るとは予想もしていなかった。 (お前の言う通りになったな、昌浩) ヴィータは子犬の姿になったザフィーラと歩きながら、あの少年のことを思い出す。 事件が解決した後、あの世界での出来事を話したら、はやてが行きたいと言い出した。 何故か、なのはとフェイトは全力で断ったので、はやてと守護騎士だけであの世界に向かった。だが、大規模な次元震でも起きたのか、道は閉ざされ行くことはできなくなっていた。 でも、これでよかったのかもしれない。昌浩と彰子が仲良くしている姿を見ずに済んだのだから。昌浩の幸せを願っていても、これだけはどうしようもない。 一つだけ心残りなのは、また会おうという約束を果たせなかったことだ。 あの律儀な少年のことだから、きっといつまでもヴィータたちが現れるのを待っているだろう。 「ヴィータ」 ザフィーラが声を出す。 道の向こうから、一人の少年が走ってくる。その顔は昌浩に瓜二つだった。 「ま、」 思わず声をかけようとするが、少年はヴィータの横を走り抜けて行ってしまう。 (当り前か) あの少年がここにいるわけがない。きっと他人の空似だろう。名前だって違うに決まっている。 「おーい、昌浩」 懐かしい声が、聞き慣れた名前を呼ぶ。 驚いて振り返ると、背の高い青年が少年を出迎えていた。 Tシャツにジーパンというラフな服装をしているのが、その顔は間違いなく紅蓮のものだった。 青年がこちらに気がつく。 「あ……」 青年は人差し指を口に当てると、そっと片目を閉じた。 ヴィータは、あの世界に着いたばかりの頃、交わした会話を思い出す。 あの世界はもしかしたら古い日本で、タイムスリップしたのかもれしれないと。その予想は正しかったのだ。 あの少年は昌浩の子孫なのだ。そして、十二神将は人ではない。紅蓮は千年の時を超えて生き続けているのだ。 紅蓮が後ろ手に手を振りながら去っていく。それを昌浩に似た少年が不思議そうに眺めている。 (いや、違う) あれはきっと昌浩の生まれ変わりだ。たとえ前世の記憶はなくとも、また会おうという約束を果たしに来てくれたのだ。 瞳が涙に滲む。 「本当……律儀な奴だよ、お前は」 去りゆく二人の姿を、ヴィータはいつまでも見送っていた。 エピローグ2 ヴィータが帰ってその話をした翌日、シグナムは朝早く家を出た。 半日を費やして町を駆けまわり、ついに一軒の大きな屋敷を見つけた。その家の前にたたずむ夜色の外套をまとった男を。 シグナムは力強く呟いた。 「楽園よ。私は帰ってきた!」 終 目次へ
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/464.html
Burning Dark(後編) ◆9L.gxDzakI ぎん、と。 鳴り響く剣戟の音はさすがに重い。 驚嘆に値する相手だと、改めてアンジール・ヒューレーは思考する。 バスターソードと互角に打ち合える重量を、軽々と振り回すその筋力。 荒々しくも素早い攻撃は、さながら棒切れでも振り回しているかのようだ。 自分も今の腕力を手に入れるだけに、どれだけの鍛練を重ねたことか。 おまけにこれまでに見たこともない、異常なまでの再生能力も備えている。 断言しよう。こいつは強い。 自分達ソルジャーのクラス1stと、ほぼ同等のポテンシャルを有している。 それでも、倒せない相手ではないはずだ。故に剣を振るい続ける。 いかに優れた再生能力を持とうと、完全な不死などということはありえない。 仮にそんなものが呼ばれていたとすれば、その時点で殺し合いのゲームバランスは崩壊する。 もしも奴が本当に不死であるならば、デスゲームの結果は論ずるまでもない。 どう考えても、耐久力の差でアンデルセンが優勝する。 それ以外の可能性はありえない。それはプレシアの望むところではあるまい。 つまり、アンデルセンは無敵ではない。 であれば、倒せる。 ばさ、と。 背後の片翼を羽ばたかせた。 戦闘において、飛行能力とは重要なアドバンテージとなる。 相手が飛べない相手ならば、跳躍の限界以上の高度まで飛べば、それだけで攻撃をシャットアウトできる。 そうでなくとも、相手以上に多様な角度から、攻撃を仕掛けることも可能だ。 敵の頭上を一飛び。一瞬にして、背後を取る。 舌打ちと共に振り返るアンデルセン。 さすがに速い。だが、隙は一瞬でもできれば十分。 「はぁっ!」 気合と共に、一閃。 振り向くその刹那に、一撃。 バスターソードの太刀筋が、アンデルセンの胸部に引くのは真紅のライン。 肉が断たれた。鮮血が弾け飛んだ。 この剣はソルジャーに入隊した記念に、郷の両親が譲ってくれた大切な家宝だ。 使うと擦り減る。勿体ない。 故に本当の危機に迫られた時以外は、敵に刃を立てることなく、全て峰打ちで潜り抜けてきた。 だが、今回は相手が相手だ。再生能力を有した敵は、斬りつけなければ倒せない。 「この程度か! 俺の能力(リジェネレイト)を見ていながら、この程度の傷をつけて満足する気か!?」 「ブリザガ!」 そして今回は、これだけではない。 ただ斬撃を繰り返しただけでも、そうそう勝てる相手ではない。 故に、戦い方を変える。 突き出した左手。足元に浮かぶのはISのテンプレート。 マテリアルパワー、発動。使用するのは氷結の力。 迸る冷気が弾丸をなし、アンデルセンの傷口へと殺到。 命中する。凍結する。斬り開かれ、修復のために蠢く筋肉が、停止。 自慢の再生は中断される。 「ぬおっ……」 「いかに再生能力を持っているといえど、凍らせて復元を止めれば……」 「嘗めるなよ剣闘士(ソードマスター)! この程度の拘束で、俺をどうこうできると思ったか!」 ぴしっ、と。 ガラスのごとき氷晶に入る、亀裂。 そこはイスカリオテの最強戦力、アレクサンド・アンデルセン。 込められた気合が。発揮される気迫が。 氷の枷へと網のごとく、鋭いひびを広がらせ、遂には粉々に砕かせる。 当然の帰結だ。 そもそも最初の遭遇で、アンデルセンは同じブリザガの凍結を破ってみせた。 であれば、部分的な冷凍など、はねのけられないわけがない。 だが。 「――氷を砕くために、その足を止める!」 それが狙いだ。 突撃。すれ違いざまに、また一閃。 氷の砕けたその矢先、今度は脇腹を襲う痛烈な斬撃。 当然、回避などできない。もろに食らった一撃が、深々とアンデルセンの懐を抉った。 治り始めたところを、また即座に氷結。 「俺がその隙を許すと思ったか」 再度標的へと向き直り、アンジールが告げる。 これが彼の狙いだ。 いかに氷を砕けると言えど、そのためには一瞬の間隔を置く必要がある。 これが並の人間同士の戦いならば、何ということもない刹那の隙だ。 だが、ここにいるのは常人ではない。 アンデルセンは熟練の達人であり、アンジールもまた同じく達人。 互いに圧倒的な実力を誇る、彼らの戦いであればこそ、その一瞬こそが命取り。 回復の隙など与えない。傷口を残らず凍結させながら、極限まで追いつめて始末する。 これがアンジール・ヒューレーなりの、再生能力との戦い方。 無論、だからといって楽に勝てるわけではない。 普段に比べて、ISの燃費が悪くなっている。エネルギーの消耗が平時よりも早い。 自身のスタミナが尽きるのが早いか、アンデルセンが倒れるのが早いか。これは極限の我慢比べ。 ばさ、と羽ばたく。 怒濤の三撃目を叩き込まんと。 「チィッ!」 されど、回避。 まさしく紙一重。 その身を強引によじったアンデルセンが、肉薄するバスターソードをかわす。 お返しと言わんばかりに迫る、グラーフアイゼンの反撃。 鉄槌をかわす。剣で受け止め素早くいなす。今度は袈裟掛けに斬りかかる。 これも回避。 振り下ろしたところを、鉄の伯爵の一撃。 大剣の防御。勢いを殺しきれず、滑るように後退。 (防御を捨ててきたか!) さすがにそう簡単にはいかないようだ。 この男、狂人であっても馬鹿ではない。崩し方の割れた再生能力に頼らず、回避行動に専念し始めている。 素早い変わり身だ。防御一辺倒と思っていた男が、ここにきて素早いフットワークを発揮した。 「Amen!」 そうこう考えているうちに、次なる一撃が叩き込まれる。 これまた剣で受け止め、弾き返し、ステップで右側へと回り反撃。 ぎん、と。 弾かれたばかりのグラーフアイゼンが、素早くバスターソードを受け止めた。 やはり手ごわい。 再生能力を抜きにしても、こいつの実力は相当に高い。 少しでも気を抜こうものなら、逆に向こうがその隙を突いてくる。 鉄槌の重圧を振り払い、後退。一旦両者の間に距離を取った。 間違いない。 これまでの戦いと現在の戦いが、アンジールに確信を抱かせる。 このアンデルセンという男、死力を尽くしてぶつからなければ、到底倒せる相手ではない。 そしてこの勝負、負けるわけにはいかないのだ。 ディエチを喪い、今度はチンクの命までもが散ろうとしている。 そんなことは許せない。今度こそ、自分のこの剣で守ってみせる。 びゅん、と。 純白の翼が疾風と化す。 眼前で待ち構えるアンデルセンへと、一直線に殺到する。 振り上がる刃。同時に構えられる相手の鉄槌。 そこからの衝突は、まさに壮絶の一言に尽きた。 「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ―――ッ!!」 「カアアアアアァァァァァァァァ―――ッ!!」 一度斬りかかれば反撃も一度。 二度打ちかかってくれば反撃も二度。 十度の攻撃は十度の反撃。 百度の猛攻は百度の反撃。 目にもとまらぬ素早さで、繰り出されるバスターソードとグラーフアイゼン。 さながら横殴りの大豪雨。否、これはもはや押し寄せる波濤。 激流と激流同士がぶつかり合い、やかましい金属音と共にせめぎ合う。 アンジールの一撃が敵を掠めれば、アンデルセンの一撃が我が身を掠める。 一歩も押せず、一歩も引かず。 両者の攻め手は完全に拮抗し、怒号と共に激突し合う。 パワー・スピード・テクニック。そのいずれかでも相手より劣れば、即座にほころびとなるだろう。 しかし、均衡は崩れなかった。 どちらもが死力を尽くし合った結果、そこに優劣は存在しなくなった。 「いいぞアンジールゥ! それでこそ倒し甲斐がある! 殺し甲斐がある! 絶滅させる甲斐があるゥゥゥッ!!」 「知ったことか! お前が俺の家族を奪おうというのなら……倒すまでだッ!!」 ただありのままに、互いの一撃一撃を。 憎むべき敵の懐目がけ、一心不乱に叩き込むのみ。 そして―― 《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッ!!!》 剣戟の轟音すらかき消す絶叫は、この時響き渡っていた。 ◆ 今のは何だ。 ただ戦闘を傍観していたチンクは、割って入った音に周囲を見回す。 それはアンジール達も同じようだ。 互いにつばぜり合いの態勢で静止したまま、意識のみで音源を探っていた。 アンデルセンと戦っていたと思えば、そこへあのアンジールという、訳の分からない男の乱入。 大剣を構えるあの男は、自分に味方してくれた。 であればこいつは一体何だ。またしても現れた第二の乱入者は、味方なのか敵なのか。 轟、と。 地鳴りのような音が響く。 いいや、地面は揺れていない。であればこれはまた別の音だ。 揺れているのは大地ではない。これは大気を揺らす音。 陽炎を起こす炎の音だ。 そしてその音源は――――――北から来る! 「いかん……チンク、逃げろッ!」 アンジールの声。同時に白き翼が羽ばたく。 一瞬遅れ、大通りに沿って現れたのは。 「なっ……!」 鬼だ。 まさしく炎の鬼の姿。 屈強な筋肉を巨体に身につけ、灼熱の業火を撒き散らす鬼神が、猛烈な加速と共に突っ込んでくる。 凄まじい熱量に歪む空気を、その突撃で吹き飛ばしながら。 溢れんばかりの真紅の炎で、その道筋を焼き尽くしながら。 理性で判断している余裕などない。 一瞬前に目撃した鬼は、今や倍のサイズに見えるほどに接近している。 かわせるか。いいや、かわすしかない。 あんなものを食らってはひとたまりもない。 かっ、と。 地面を叩き、バックステップ。 思い出したように、ハードシェルの準備を整える。 だが。 その時には既に遅かった。 一瞬の反応が遅れた結果、防壁が完全に展開するよりも早く。 「う……うわああぁぁぁぁぁーッ!!」 炎がその身に襲いかかった。 ◆ 単刀直入に言おう。 この時、チンクら3人へと襲いかかったのは、地獄の業火を操る灼熱の召喚獣――イフリートである。 その力は、数多いる召喚獣の中でも比較的低い。 クラス1stであるアンジールや、それと同等の実力を誇るアンデルセンなら、恐らく倒せていただろう。 事実として、最強のソルジャー・セフィロスは、かつてこれを一撃で撃破している。 だが、それは敵の攻撃をかいくぐり、こちらの攻撃のみを命中させた場合の話だ。 召喚獣の破壊力は絶大。 骨すら溶かす紅蓮の炎は、食らえば人間などひとたまりもない。 まして、制限によって弱体化されている今の彼らに、生き延びられる保障はない。 そしてその暴力的な力を前に、3人はいかなるアクションを取ったか。 まず、イフリートが使われている世界から来た、アンジール・ヒューレー。 雄たけびでその正体を察知した彼は、誰よりもいち早く離脱することができた。 続いて、イフリートを目撃した瞬間に、ようやく回避行動を起こしたチンク。 たとえ未知の存在であるといえど、似たような魔法生命体の存在は、一応頭に入っている。 間に合わずかの召喚獣の纏う炎を受けたものの、体当たりの直撃だけは避けられた。 真っ向から突撃を食らうことがなかっただけでも、まだましな方であったと言えるだろう。 そして、アレクサンド・アンデルセン。 いかに化物退治を生業とする彼でも、このような巨大生物は過去に見たことがなかった。 彼が屠ってきたのはヴァンパイアやグール。全て人間大の範疇に収まるもの。 故に、こんな冗談のような存在は、これまで目の当たりにしたことがない。 そのためその巨体を前に、一瞬とはいえ魅入られたアンデルセンは―― ――唯一、その直撃をまともに食らってしまった。 ◆ 凄まじい圧力を身体に感じている。 凄まじい熱量が身体を舐めている。 抗う術は既にない。真正面から体当たりを食らった瞬間、グラーフアイゼンは右手から弾け飛んだ。 くわと見開かれたアンデルセンの視線と、イフリートの視線が重なっている。 そうだ。これこそが真の化物だ。 人間の理解を容易に跳ね除ける、このような存在だからこそ、化物(フリーク)の名に相応しい。 掛け値なしの化物共に比べれば、自分など所詮健全な一般人だ。 だが同時に、自分はその化物を駆るべき人間でもある。 殺し屋。銃剣(バヨネット)。首斬判事。天使の塵(エンゼルダスト)。 語り継がれる数多の異名は、この身に培った力の証。 偉大なる神の御心の下、その威光に刃向かう百鬼夜行を、血肉の欠片も残らずぶった斬ること。 それこそが己の仕事であり、己の存在意義でもある。 それがどうした。 そのアレクサンド・アンデルセンが、こんな形で倒れるのか。 絶滅させるべき存在である化物に、逆にくびり殺されて終わるのか。 既に身体は動かない。 アンジールによって刻まれた傷痕から、炎が体内までも侵略している。 再生が追いつくはずがない。身体を動かす余裕などない。 情けない。 何だこの体たらくは。 法王の下へと帰還することすら叶わず、こんなところで朽ち果てるのか。 このまま地獄の炎に焼かれ、消し炭となって路傍に打ち捨てられるのか。 アンジールやチンクを放置したまま。 あの男との決着もつけられぬまま。 ――アーカードを殺せぬまま。 「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォ――――――――……………ッッッ!!!!!」 【アレクサンド・アンデルセン@NANOSING 死亡】 【残り人数:42人】 ※G-6の南北に走る大通りと、その南側の延長線上の建物が、イフリートの「地獄の業火」を受けました。 道路は焼け焦げ、建物は崩壊しています。 ※H-6の川に、アンデルセンの焼死体と、焼け焦げたデイパックが浮いています。 アレクサンド・アンデルセンは死んだ。 道路に転がったグラーフアイゼンと、最期の絶叫がその事実を物語っている。 それは受け止めよう。もっとも、こんな形で決着がつくとは思わなかったが。 だが、今アンジールの青き視線は、全く別のものを捉えていた。 もはや彼の全神経は、それとは全く異なるものに向けられていた。 「……チンク……」 肩を震わせ、呟く。 視線の先に落ちていたのは、黒い眼帯とうさぎの耳。 何故かバニーガールの服装をしていた、あの小さな妹の身に付けていたものだ。 姉妹の中で最も幼い姿をしながら、12人中5番目に生まれていた娘。 小さな身体とは裏腹に、常に下の妹達の面倒を見ていたお姉さん。 いつしかそこに加わっていたアンジールのことも、仲間の一員として受け止めてくれていた。 ウーノがケーキを買ってきたときにも、自分の代わりに剣の手入れを引き受けるとまで言ってくれた。 「俺はまた……守れなかったのか……」 彼女の眼帯のその先には――同じく黒に染まった、短い右腕が落ちていた。 肘から下の部分であるそれは、完全に炭化してしまっている。 間に合わなかった。 イフリートの突撃を回避できず、その身を炎に焼かれてしまった。 その右腕だけを残して。それ以外の部分は、影も形も残らぬほどに。 地獄の責め苦の苦痛の中で、死体すら残さず燃え尽きてしまったのだ。 自分のせいだ。 自分の力不足が彼女を殺した。 あの時回避をチンクに任せなければ。 距離が離れていようとも、届いて助け出せるだけの速さがあれば。 2人目の家族を、死なせずに済んだのだ。 「……くそ……ッ!」 後悔が。絶望が。 男の顔を、歪ませる。 【1日目 午前】 【現在地 G-6 大通り】 【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 【状態】健康、疲労(中)、全身にダメージ(小)、セフィロスへの殺意、深い悲しみ 【装備】バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、アイボリー(6/10)@Devil never strikers 【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【思考】 基本:クアットロを守る。 1.チンク…… 2.クアットロ以外の全てを殺す。特にセフィロスは最優先。 3.ヴァッシュ、アンデルセンには必ず借りを返す。 4.いざという時は協力するしかないのか……? 【備考】 ※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。 ※制限に気が付きました。 ※ヴァッシュ達に騙されたと思っています。 ※チンクが死んだと思っています。 ※G-6の大通りには、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 チンクの眼帯、バニースーツのうさぎ耳、炭化したチンクの右腕が落ちています。 全てを見ていた者がいた。 戦場から離れた道路の上で、一部始終を目撃していた者がいた。 黒と紫に彩られた、ゴシップロリータのドレスを纏うのは、未だ10歳にも満たぬ少女。 薄紫の髪を風に揺らし、真紅の瞳は手元を見つめる。 「……お疲れ様」 ぽつり、と呟いた。 視線の先にある、宝石のような球体へと。 マテリアだ。 魔晄エネルギーが結晶化し、固体と化した球状の物体。 人間はこのマテリアを介することで、その種類に応じた古代の魔法を、自在に発動することができるのである。 そして彼女の手の中にあるのは、その中でも召喚マテリアと呼ばれるもの。 対応する召喚獣の名は、イフリート。 そう。 彼女こそが、あの灼熱の魔神を呼び出した張本人。 スカリエッティに協力する召喚魔導師――ルーテシア・アルピーノである。 全てはほんの偶然だった。 元々は当初の予定通り、スカリエッティのアジトへと向かおうとしていた。 しかし、F-7エリアまで足を運んだ時、とある発想が頭に浮かんだ。 ――あの光と風に従ってみよう、と。 ユーノ・スクライアを刺した直前、襲いかかってきた衝撃波を思い出したのだ。 あれが砲撃魔法か何かの余波ならば、当時の状況から推察するに、G-5かG-6に向かって飛んで行ったことになる。 少なくとも、アジトのある北東ではなさそうだ。通り道であったはずの、G-7にその気配がなかった。 あれだけの破壊力の矛先だ。きっとその先には何かがある。 幸いにも、ここからもそう遠くない。 生体ポットの様子を見に行く前に、少し覗きに行っても罰は当たるまい。 そう思い、ひとまずはそちらへ向かうため、大通り沿いにF-6へと踏み込んだ。 そして南下しようとした時、その先に彼らを見つけたのだ。 切り結ぶ剣士と神父、そしてその手前に立つチンクの姿を。 ちょうどいい。 3人も人が集まっているのだ。ここらでイフリートの力を試してみよう。 起動テストも兼ねた実験だったが、どうやら上手くいったようだ。 見事召喚獣は顕現し、その絶大な破壊力を見せつけた。 体力の消耗がついてくるのが玉に瑕だったが、十分な威力と言っていいだろう。 しかし、1つだけ不満がある。 あれだけの猛威を振るっておきながら。 「殺せたのは1人だけ……か……」 【1日目 午前】 【現在地 F-6 大通り】 【ルーテシア・アルピーノ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康、魔力消費(中)、疲労(小)、キャロへの嫉妬、1人しか殺せなかったのが残念 【装備】マッハキャリバー(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ウィルナイフ@フェレットゾンダー出現! 【道具】支給品一式、召喚マテリア(イフリート)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、 エボニー(10/10)@Devil never strikers、エボニー&アイズリー用の予備マガジン 【思考】 基本:最後の一人になって元の世界へ帰る(プレシアに母を復活させてもらう)。 1.どんな手を使っても最後の一人になる(自分では殺せない相手なら手は出さずに他の人に任せる)。 2.北へ向かい、スカリエッティのアジトへ一度行って生体ポッドの様子を確かめる。 3.一応キース・シルバーと『ベガルタ』『ガ・ボウ』を探してみる(半分どうでもいい)。 4.一応18時に地上本部へ行ってみる? 5.もしもレリック(刻印ナンバーⅩⅠ)を見つけたら確保する。 【備考】 ※ここにいる参加者は全員自分とは違う世界から来ていると思っています。 ※プレシアの死者蘇生の力は本物だと確信しています。 ※ユーノが人間であると知りました。 ふらり、ふらり、と。 おぼつかない足取りが、前へと進む。 ぼろぼろに焼け焦げたシェルコートと、ちりちりとくすんだ銀髪を、力なく風に揺らしながら。 火傷を負った全身を、引きずるように歩きながら、少女が東へと進んでいく。 チンクは生きていた。 ハードシェルの展開こそ間に合わなかったものの、何とか一命を取り留めたのだ。 イフリートの炎に煽られた彼女は、G-7の西端へと吹っ飛ばされていた。 そしてその後は、危険な戦場を離れるために、こうして東へと逃れていたのである。 考えるべき事項はいくつかあった。 アンジールはともかくとして、あのアンデルセンはどうなったのか。 見知らぬISを発動していたアンジールは、一体何者だったのか。 何故自分の名前を知っていて、ああも馴れ馴れしく接してきたのか。 だが、そんなことを考える余裕など、チンクには一切残されていない。 それ以上に大きな念が、彼女の脳内を占めていたから。 ぼとり、と。 コートの裾からこぼれ落ちる、漆黒の塊。 それを気に留めることもなく、目の前の巨大な建物へともたれかかり、腰を下ろす。 「……参ったな、ディエチ……」 か細い声が、呟く。 天を仰ぎながら、自嘲気味な笑みを浮かべる。 地獄の業火に飲み込まれたあの時、チンクはとっさに両腕を突き出し、防御態勢を取っていた。 爆発物の投擲を基本スタイルとする彼女にとって、何よりも失いがたい両腕を、である。 その結果かどうかは分からないが、どうにかこうして生き延びることはできた。 全身に負った火傷はひどく痛むが、それでも死には至っていない。 だが、その代償もある。 それこそがあの襲撃の現場に落ちていたものであり、そして彼女がたった今落としたもの。 アンジールが見つけたそれと同じように、ぼろぼろに焼け焦げて抜け落ちたのは――左腕。 「もう、姉は……戦えない身体なんだとさ……」 す、と。 金色の瞳から、一筋の雫が線を引いた。 【1日目 午前】 【G-7 デュエルアカデミア外部】 【チンク@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康、疲労(中)、全身に火傷、両腕欠損、絶望 【装備】バニースーツ@魔法少女リリカルなのはStrikers-砂塵の鎖-、シェルコート@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【道具】支給品一式×2、料理セット@オリジナル、翠屋のシュークリーム@魔法少女リリカルなのはA's、 被験者服@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(フェイト(StS)、ナイブズ)、 大剣・大百足(柄だけ)@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる、ルルーシュの右腕 【思考】 基本:姉妹と一緒に元の世界に帰る。 1.ディエチ……姉は…… 2.G-6~8を中心に、クアットロを探す。しばらくして見つからなかったら、病院に戻る。 3.クアットロと合流した後に、レリックを持っている人間を追う。 4.姉妹に危険が及ぶ存在の排除、及び聖王の器と“聖王のゆりかご”の確保。 5.ディエチと共闘した者(ルルーシュ)との接触、信頼に足る人物なら共闘、そうでないならば殺害する。 6.クアットロと合流し、制限の確認、出来れば首輪の解除。 7.十代に多少の興味。 8.他に利用出来そうな手駒の確保、最悪の場合管理局と組むことも……。 9.Fの遺産とタイプ・ゼロの捕獲。 10.天上院を手駒とする。 【備考】 ※制限に気付きました。 ※高町なのは(A’s)がクローンであり、この会場にフェイトと八神はやてのクローンがいると認識しました。 ※ベルデに変身した万丈目(バクラ)を危険と認識しました。 ※大剣・大百足は柄の部分で折れ、刃の部分は病院跡地に放置されています。 ※なのは(A’s)と優衣(名前は知らない)とディエチを殺した人物と右腕の持ち主(ルルーシュ)を斬った人物は 皆同一人物の可能性が高いと考えています。 ※ディエチと組んだ人物は知略に富んでいて、今現在右腕を失っている可能性が高いと考えています。 ※フェイト(StS)の名簿の裏に知り合いと出会った人物が以下の3つにグループ分けされて書かれています。 協力者……なのは、シグナム、はやて、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、クロノ、ユーノ、矢車 保護対象……エリオ、キャロ、つかさ、かがみ、こなた 要注意人物……十代 ※フェイト(StS)の知り合いについて若干の違和感を覚えています。また、クローンか本物かも判断出来ていません。 ※アンデルセンが死んだことに気付いていません。 ※アンジールと自分の関係は知りませんが、ISを使ったことから、誰かが作った戦闘機人だと思っています。 ※シェルコートは甚大なダメージを受けており、ハードシェルを展開することができなくなっています。 ※G-7のチンクの目の前には、炭化したチンクの左腕が落ちています。 Back Burning Dark(前編) 時系列順で読む Next Paradise Lost(前編) 投下順で読む Next 銀色の夜天(前編) チンク Next 過去 から の 刺客(前編) アレクサンド・アンデルセン GAME OVER アンジール・ヒューレー Next Round ZERO ~ JOKER DISTRESSED(前編) ルーテシア・アルピーノ Next 過去 から の 刺客(前編)
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3081.html
此処はゆりかご内の施設、大きなモニターの前にレザードとスカリエッティは席を置きチェスを嗜んでいた。 彼等の後ろではウーノとクアットロがガジェットに情報を送っており、 大きなモニターにはリニアレールが映し出されていた。 その中でスカリエッティはポーンを動かしレザードに問いかける。 「どうだろ今回の作戦は……うまく行くと思うかね?」 「……まぁ無理でしょう、十中八九あの六課が動くのは間違いないでしょうし」 顎に手を当てながら即答するレザード、六課の事はドゥーエから聞いており、その戦力は常軌を逸しているという。 今度はレザードがポーンを動かし問いかける。 「もっとも…それを見抗して、あのようなメッセージを刻んだのでしょ?」 「フッ…まぁね」 スカリエッティは笑みを浮かべ今度はナイトを動かし答えた。 「今回は宣戦布告の意味も込めているからね、レザード…君もそうなんだろ?」 「まぁ、否定はしませんよ」 眼鏡に手を当て不敵な笑みで答えるとポーンを動かすレザードであった。 リリカルプロファイル 第十二話 布告 現在、なのはと新人達はヴァイス陸曹がパイロットを務めるヘリで事件現場へと向かっていた。 今回の事件の発端はロストロギアであるレリックを運搬していたリニアレールが、 ガジェットに襲われていると報告を受けた為、六課は速やかに現場へと向かう事となったのだ。 ヘリの中では、なのはを筆頭にモニターを使った作戦会議が行われていた。 映像の上空にはガジェットⅡ型が犇めき合い、車両にはガジェットⅠ型が取り付いていた。 ガジェットドローンⅡ型、前翼機の姿をした空戦型のガジェットで、一般の空戦魔導師と変わらない航行速度を持つガジェットである。 話は戻りガジェットⅡ型は、なのは及び現場で合流予定のフェイトによって応戦、 残りの新人達はリニアレールに取り付いたガジェットを撃破しつつ、レリックを回収するという作戦を立てた。 各々が作戦を確認する中、キャロ一人だけが不安を抱いていた。 それは自分の内に存在する能力の事である。 キャロの能力は竜使役と呼ばれる、その名の通り竜を使役する能力で、 わずか六歳で白銀の飛竜を従わせる程の実力を持っていた。 だがキャロの力は周りの人を傷つけるだけだと部族の仲間から言われ続け、部族から追われる形で追放されたのだ。 その後管理局に保護されるのだが、強力な竜の力を制御できないキャロに、管理局も手を拱いていた。 管理局は殲滅戦による投下以外に役に立たないとキャロにレッテルを張ると、 フェイトが保護責任者として名乗り出てキャロを引き取ったのであった。 部族からの追放以降、キャロは自分の力で仲間を傷つけ、全てを殲滅させるのではないかと、恐れを抱き自分の力に目を背けていた。 そんなキャロの不安さを感じ取ったなのはは、そっとキャロの肩に触れ激励を込める。 「キャロの魔法はみんなを守ってあげられる、優しくて強い力なんだから」 その暖かい言葉にキャロは励まされ、みんなの役に立つ為に自分の力と向き合おうと決心するキャロであった。 その間にヘリは現場に到着、ヘリの後方が開くとそれぞれ降下し、作戦は開始した。 暫く経ち、現場から数キロ離れた森の上空、ここでルーテシアは一人モニターを見つめていた。 モニターにはガジェットが次々と落とされている様子が映し出されていた。 その中でモニターの右上にレザードの顔が映し出される。 「首尾はどうです?ルーテシア」 「博士……見ての通り悪い…」 レザードは眼鏡に手を当て当然か…といった表情を醸し出していた。 そしてレザードは第二陣としてルーテシアに不死者召喚を指示すると、ルーテシアは頷き準備を始めた。 ルーテシアは目をつぶり右手を下にかざし五亡星の陣を張ると詠唱を始めた。 「我は悠久の刻の渦中に身を委ねし者…其は我が名を知るがよい…知らぬ者は己が痴れた者と知るべし…… そして刻め…我が名はルーテシア・アルピーノ…其の名は冥王の烙印と化して其に裁可を下すだろう…… 魂の救い与え賜う事を乞うならば…今一度此方へと集うべし……」 長い詠唱の後、森の中に五亡星の陣が現れ陣からは猿の不死者ギボンが十体、 更にルーテシアの左右に五亡星の陣が現れ陣から魚の不死者カーレントフィッシュと、 鳥の不死者バーミンをそれぞれ十体、合計三十体の不死者を召喚させた。 「上出来です、ルーテシア」 「でも博士……下級クラスの不死者でいいの?」 「えぇ充分でしょう」 相手の戦力を、力量を、そして相手に対し宣戦布告を促すには充分だとレザードは内心で呟いた。 そしてルーテシアは不死者達にレリックの回収を命令すると、 カーレントフィッシュは泳ぐように向かい、 バーミンはギボンに向かって急降下すると、ギボンはバーミンの足をつかみ そのままバーミンはギボンを持ち上げ現場へと飛んでいった。 場所は変わり此処は六課の司令部通称ロングアーチ。 中には大きなモニターが幾つかあり、モニターには各前線メンバーがガジェットを叩き落としている映像が映っていた。 はやてはその光景を見ながら、新人達の訓練の成果は充分に出ていると考えていた。 車両に乗り込んだスバル・ティアナは次々にガジェットを撃破しレリックまで後僅かであるし 車両の屋根に残ったキャロは自分の力と向き合い、竜魂召喚を行ってフリードリヒを本来の姿に戻し、更にその力を操っていた。 エリオはキャロの支援魔法を受け大型のガジェットIII型を撃破など数々の戦績を残していた。 なのは、フェイトの両名も次々にガジェットを撃破し、 作戦もそろそろ終わりに差し掛かった頃、急にオペレーターが慌ただしく状況の変化を説明をする。 「レーダーに反応!これは………アンノウン!?数は三十!!」 「なんやて!?何処に向かっとるか分かるか?」 「待って下さい、この方向は……リニアレールの方向です!」 となると十中八九レリックを狙っているガジェットだと考えるが、アンノウンだと言う事は 新たなガジェットの投下という可能性があるとはやては示唆し、早急に前線チームに情報を送るよう指示をした。 一方前線チームはガジェットを全撃破し、レリックの回収も終了していた。 なのはとフェイトは新人達に激励を送っているとロングアーチから連絡が入り、なのはは新人達に連絡を伝えた。 「スターズ1から各隊員へ、今から此処にアンノウンが来るよ、その数は三十、みんな気を引き締めて!」 ロングアーチの話だと新たなガジェットの可能性があると、 そして今此方に来ているアンノウンはレリックを狙っていると説明する。 するとティアナはスバルに注意を促した、今レリックはスバルが持っているからだ。 キャロもエリオもその場で待機し、なのはとフェイトも上空で待機していると、 遠くに影のような物が近づいてくるのが分かった。 各隊員は気を引き締めていると影は大きくなりサーチポイントまで近づくと唖然とした。 その頃ロングアーチにいたはやて部隊長は、アンノウンの映像を見るや否や思わず叫んだ。 「何やねん!何で魚が飛んどんねん!つか、なんで猿が鳥にぶら下がってん!サーカスかぁ!!」 立場を忘れ思わずツッコむはやて、ハッと我に返り一つ咳をすると、はやては分析班にアンノウンの分析を指示した。 一方現場ではメンバーが呆気にとられている内に、魚がリニアレールの窓めがけて突進、窓を突き破り進入した。 それを皮切りに猿が反動を付けて車両の屋根に飛び移り、猿を運んだ鳥はなのは達に向かい襲いかかっていった。 「各隊員!見た目はあれだけど、レリックを狙っているのは間違いないから!各個撃破を!」 なのはの指令に気を取り直し攻撃を仕掛けるメンバーであった。 リニアレール内ではスバルがマッハキャリバーで加速し拳に魔力を乗せ、力一杯魚を殴った。 ナックルダスターと呼ばれる打撃魔法である。 魚はなす統べなく連結扉に叩き付けられ地面に落ちる、しかしすぐに起きあがると、スバルに襲いかかった。 「そんなっ!!」 スバルは困惑していた。何故ならば今の一撃は並の魔導師ならば一撃で気絶する代物、しかも手応えもあったのだ。 それなのに平然と起き上がり何事も無かったかのように襲い掛かる、そんな異様な状況にスバルは畏怖を感じていた。 一方ティアナは障害物を盾に必死に魚と応戦をしていた。 その中、魚は口から泡を六弾ずつ吐き出してくる、ティアナはクロスミラージュで一つずつ丁寧に撃ち落とし、魚本体にも気絶する数の魔力弾を撃ち込んだ。 魔力弾を撃ち込まれた魚は床に落ちるが、すぐさま起き上がり攻撃を仕掛けてくる。 「どうなってるの!?手応えはあったのに!」 クロスミラージュも本来なら気絶する魔力弾を撃ち込んでいると説明するが、現状は全く打破されていなかった。 その中一つの泡が隣の木箱に触れると炸裂し木箱は中身ごと吹き飛んだ。 ティアナは絶句した、こんな物が直撃すれば、いくらバリアジャケットを装着してあったとしても怪我だけでは済まされない。 ティアナは舌打ちをしながら飛んでくる泡を迎撃しながら次の車両へと移動した。 「エリオ君!」 「キャロはフリードと一緒にいて!」 一方、車両の屋根ではエリオが猿と対峙していた。 猿の動きは思いの外鈍く、ソニックムーブを使うほどではなかった。 だが腕力は高く屋根をへこませる程であった。 しかし今のエリオにはとるに足らない相手ではあった。 「ストラーダ!カートリッジロード!」 槍型アームドデバイス、ストラーダがカートリッジを一つ使用すると、エリオの足元に三角の魔法陣が現れる。 エリオは矛先を猿に向けると矛の端から魔力を噴射しロケット弾の如き加速で突撃、 矛先が猿の横隔膜辺りに突き刺さるとそのまま持ち上げ、他の猿の仲間に投げつけた。 エリオの魔法スピーアアングリフは確実に猿を気絶に追い込む一撃を与えていた、だが猿はすぐに起きあがり、エリオに襲いかかる。 「くっそ~またか!もしかして不死身なんじゃないか…」 鼬ごっことも言える攻防戦にエリオは疲れを見せ始めていた。 そんなエリオの上空ではキャロがエリオの身を案じていた。 それと同時に猿を観察していると、何か違和感を感じていた。 その中フリードがキャロに悲しみと恐怖が入り混じった様子で話しかけて来た。 「えっ彼らは死んでるって!?」 フリードによれば猿は生気もなく意識も無い、つまり死体だと説明する。 ならば死体を操ってレリックを回収しようとしている者がいるとキャロは考えた。 だが、そんな人物は本当に存在するだろうか?寧ろこの情報をフェイト達に教えても理解してくれるだろうか。 だが、今の状況ではこれしか判断できないと考えたキャロはフェイトに念話を送った。 一方上空でも、なのはとフェイトは戸惑っていた。 なのははアクセルシューターで、フェイトはハーケンスラッシュで次々と鳥を撃破するが、 地面スレスレで意識を取り戻し、すぐさまなのは達に攻撃を仕掛けてくるのだ。 これでは埒があかないとなのはは愚痴をこぼしている時、フェイトはキャロからの念話を受信する。 (…どうしたの?キャロ) (…フェイトさんにどうしても伝えたいことがあって……) キャロの話に思わず動きを止めるフェイト、その隙をついて鳥は攻撃を仕掛けようとするが、なのはのフォローにより難を逃れた。 「どうしたのフェイトちゃん!動きを止めて!」 「ゴメンなのは、ちょっと動揺して…」 フェイトは気を取り直し、キャロにその内容をロングアーチに伝えるように指示した。 一方ロングアーチではキャロの話に衝撃を受けていた。 「んで何か?アレはゾンビっちゅう訳か?んなホラーじみた話――」 「あながち否定出来ないと思われます」 はやての否定に間髪入れず分析班が割り込んで答えた。 分析班の映像による分析では、アンノウンの肉体は呼吸などの生命活動を行ってない、つまりは死体当然だと説明する。 そしてその肉体をリンカーコアによって維持している可能性があるらしいのだが、 そのリンカーコアは暴走状態になっており、暴走状態によって作成した魔力で肉体の強化をも行っていると語る。 現場の状況、キャロの話、分析班の説明それらは、はやてを納得させるには充分な情報であった。 確かに死んだ肉体では非殺傷設定の攻撃は効くはずがない… 何故ならば魔力に幾らダメージを与え気絶させようとしても死体に意識など元から無いのだからだ。 更にリンカーコアの暴走によって魔力はすぐに回復する為、すぐに行動を開始する事ができる。 ならばアンノウンを撃破するには一つしかない、だが今の新人達に出来るだろうか… はやては不安を持ちつつ前線メンバーに指示を促した。 「えっ!非殺傷設定解除による攻撃!?」 「せや、今んとこあのアンノウンを撃退するにはそれしかあらへん」 はやての指示に新人達は戸惑いを見せていた。 その様子を見たなのはは新人達にこう命令した。 「よし!みんなは前線から離れて、後は私とフェイトちゃんがやるから!」 いくら命令とは言え、いくら相手が死体当然とは言え、 命を奪うような行為はさせたくないとなのはは考え命令を下したが、スバルはその命令に反発する。 「私達なら大丈夫です!」 「でもスバル…」 「確かに本音は嫌です…でも!だからと言って なのはさん達ばかりに重荷を背負って貰う訳にはいきませんから!!」 スバルの言葉に皆が頷く、その光景を見たなのはとフェイトは思わず笑みを浮かべた。 スバル達はきちんと強くなっている、技術面だけじゃない精神面も… そして一番新人達を信じていなかったのは自分じゃないか… そう思うと自分の頭を叩きフェイトと目を合わせ頷くと命令した。 「分かった…スターズ1から各隊員へ!アンノウンを撃破!」 『了解!!!』 なのはの命令に力強く答え、アンノウンとの戦闘を開始した。 リニアレール内、スバルは魚に向かってナックルダスターを放つ。 ナックルダスターは魚の胴体を捉え、 口から血を吐き出し窓に叩きつけた。 辺りにグシャッと肉が潰れる音が響き渡るが、スバルは気にも止めずリボルバーナックルから一つカートリッジを消費すると、 スピナーが回転し拳に衝撃波が集まると振り返り撃ち抜く。 「リボルバーァァァァシュュュュュトォ!!!」 拳が乗った衝撃波は真っ直ぐ突き進み、魚を三匹巻き込んで窓を突き破った。 三匹の内二匹は衝撃波に巻き込まれバラバラとなり、残り一匹は下半身のみを巻き込んで倒れた。 上半身を残した魚は、光の粒子に変わり消滅、窓に叩きつけた魚も同様に消滅した。 スバルは残り一匹に目を向け、拳を握った。 一方ティアナはスバルがナックルダスターで魚を撃破していた頃、魚を一匹撃破していた。 撃破後、魚は警戒した為か一斉に泡を吹きだし、ティアナはダブルモードで迎撃を行っていた。 すると魔力弾が空になりカートリッジもゼロになると、 カートリッジバレルを排出し障害物に身を潜めバレルを交換する。 そしてカートリッジをロードすると足下に円陣が現れ更にティアナの周りにオレンジ色の魔力弾を構築させる。 「クロスファイア……シュートォ!!」 次の瞬間、クロスファイアが魚に襲いかかり頭を吹き飛ばす。 魚は泡で迎撃を行ってみるも、難なく避けられ次々に魚を光の粒子に変えていったのであった。 一方リニアレールの屋根の上では、キャロが猿に対しアルケミックチェーンで動きを止め、フリードに命令する。 「フリード!ブラストレイ!!」 その命令にフリードは雄叫びをあげると、口から紅蓮の炎を放射 炎は猿に直撃すると消し炭になるまで猿の肉体を焼いた。 消し炭となった肉体は光の粒子となって消滅、辺りには肉を焼いた匂いだけが残っていた。 一方エリオはスピーアアングリフでフリードリヒに乗るキャロの所まで跳ぶと、 キャロに先ほど行ったツインブーストをもう一度かけて欲しいと頼むとキャロは快く応じる。 ツインブーストを受けたエリオはカートリッジを消費し、魔力刃で構成された矛先を猿に向けると気合いを込めて叫んだ。 「スタールメッサー!」 エリオは矢の如き加速で突撃し猿の頭を捉えると魔力刃を縦に切り替え腹部まで切り裂き、更に右に振り抜いた。 振り抜いた先には猿が両手を組み振り下ろそうとしているが、 エリオはストラーダの魔力刃で両腕を切り落とし、更に頭を切り落とした。 更にエリオに迫ってくる猿に対し、右払いで攻撃、猿の肉体は上半身と下半身に分かれた。 すると切り裂いた猿から大量の血が吹きだし、それは血の雨となってエリオの頭上に降り注ぐ。 だが猿の肉体が粒子化すると同時に、血も光の粒子に変化し消滅した。 「……ゴメン」 小さく呟くように猿達に謝ると次の標的に目を向けた。 リニアレールの上空、なのはとフェイトはまさに飛ぶ鳥を落とす勢いで撃破していた。 その中ロングアーチから連絡があり、アンノウンを二~三羽捕縛して欲しいと指示を受けた。 どうやら今後の対処のためのサンプルとしてのようだ。 なのは達は了解すると残り四体の内、二体をなのはがレストリクトロックで縛り上げ、 残りの二羽をフェイトがハーケンスラッシュで撃破した。 「…不死者、二体捕縛されたの以外全滅……」 「そうですか…ではルーテシアはもう戻ってきていいですよ」 「いいの?」 これ以上の戦力の投下は無駄だとレザードは判断し、ルーテシアはそれに従いその場を転移した。 レザードはルーテシアとの連絡を切るとチェスに目を向け顎をなでる。 するとスカリエッティが問いかけてきた。 「不死者…捕縛されたみたいだね」 「えぇ…ですが問題ありませんよ、想定の範疇でしすし、所詮はただの捨て駒です」 「…成る程、つまりあれがレザードの宣戦布告と言うわけだね」 「えぇそうです……これでチェックメイトです」 「なにっ!?」 眼鏡に手を当て笑みを浮かべ宣言するレザード。 スカリエッティはチェスの盤をじっくり眺め、挽回出来ないかと探してみるものの結局見つけられず、 お手上げの表情で敗北を認めたスカリエッティであった。 リニアレール事件から一夜開け、今回回収したガジェットの分析待ちをしているフェイトは、 シャーリーと共に先日の戦闘データを纏めていた。 その中で一つ気になる映像を発見した、それはエリオがガジェットIII型を撃破している映像で ガジェットの内部を拡大し解像度を上げると、内部に組み込まれた青い結晶を発見する。 「これは?」 「…間違いない……ジュエルシード」 かつてなのはと対峙し、自分にもっとも関係しているロストロギア。 すると分析班から報告書が届き目を通す。 ガジェットは市販されたパーツを改造したものが殆どであるが、 その中にJ.Sと刻まれたプレートが存在していたという。 フェイトは納得した表情を見せるとシャーリーから端末を借り映像を映し出す。 モニターには白衣を着た紫の髪の男性が映り出していた。 ジェイル・スカリエッティ…生命操作や生命改造、精密機械などを手掛ける科学者で 広域指名手配を受けている次元犯罪者でありフェイトが追っている犯罪者でもあった。 「ガジェット、ロストロギア、J.Sと刻まれたプレート、間違いなくこれは………」 モニターを睨みつける様に見つめフェイトはこう言い放った。 ―――これはスカリエッティの宣戦布告であると――― 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/468.html
Round ZERO ~ JOKER DISTRESSED(後編) ◆HlLdWe.oBM 「インテグラ卿!!!」 ギンガの叫びが幾重にも重なった深い煙の中に虚しく響く。 どういう原理か知らないが校庭周辺に漂っている煙の量は半端ではない。 ガジェットに施されたランブルデトネイターによる爆発によって発生した爆煙。 広い校庭の細かな砂が爆発によって舞い上がった事で発生した土煙。 さらにガジェットが爆発した付近には体育倉庫があり、その中にはどこにでもあるようなラインパウダーが保管されていた。 それがガジェットの爆発に巻き込まれて周囲に拡散する始末となった。 つまり現在校庭付近に限定するなら3重もの煙幕が展開されて視界はほとんど防がれている状態。 この異常事態の確かな原因をギンガは知らないが、最悪の状況である事は確かだ。 インテグラはもちろん、膠着状態だった弁慶・カリス・ギンガ・ギラファの4人も爆発の影響で離れ離れになってしまった。 つまり現状誰がどこにいるのかさっぱり分からない状態なのだ。 「インテグ――ッ!」 ギンガはあらん限りの声を上げてインテグラを呼び掛けていたのだが、そこで唐突にある可能性に気付いた。 この状態では目に頼った捜索は困難を極める。 では目に頼らなければどうするか。 答えは耳。 周囲の音から物事を判断する事が自然と重要になってくる。 そしてそんな中で声を上げるという事は自分の居場所を相手に教えるという事に他ならない。 この場所にいる者がインテグラだけなら大して問題ではないが、実際は違う。 ここには始と戦っていたアンデッドと僧侶姿の大男がいた。 そんな危険人物のいる中で自らの居場所を教えるなど少々浅はかである。 (危なかった。あのままだったら、あとでインテグラ卿に怒られてい――) そこでギンガの思考は途切れた。 深く立ち込めた灰色と白色が入り混じった煙の向こうに二つの人影を見つけたのだ。 一つは地面に伏していて、もう一つはその脇に立っている。 それを見た瞬間、ギンガは再び嫌な予感がした。 心の内にチラつく不安に後押しされてギンガは碌な確認もしないまま既に足をそちらに向けて知らず知らずの内に走っていた。 全力で走ってすぐさま現場に着くと、そこにいるのが誰なのか分かった。 地面に伏しているのはインテグラ、立っているのは金色の怪人――ギラファアンデッド。 そして地面にうつ伏せの状態で倒れているインテグラの背中には紅い槍が刺さっていた。 「貴様ァァァ!!!」 限りなく即死に近い状態だった。 槍が刺さっている場所は心臓付近。 そこを穿たれて平気な人間などいない。 しかもインテグラは数時間前に全身火傷を負って体力が消耗している さらに手元に碌な治療用具がない以上適切な処置など不可能。 つまりインテグラの死は確定的だった。 「……見られたか、ならば!」 当の下手人であるギラファはギンガの姿を認めると、静かな殺気と共に襲いかかって来た。 ギラファが殺し合いに乗っている事は火を見るよりも明らかである。 そんな危険な者を、インテグラを殺した怪人を、ギンガはこのまま野放しにする気など毛頭なかった。 ギンガは悲しみを心の底に追いやり、猛然とギラファに向かっていった。 「ハ――ッ!!」 「――ッ!!」 幼い頃よりこの身に刻んできたシューティングアーツの技を惜しみなく繰り出していく。 その一手一手にはカード内に蓄積されていた魔力を順次開放させて上乗せしている。 本調子とまではいかなくても威力は申し分ないはず。 だが届かない。 拳も、蹴りも、魔法も、全て。 ナックルバンカー――魔力付与によって強化した拳は右手の剣で払われた。 ストームトゥース――防御破壊と直接打撃の左拳二連撃は最初の一撃を躱されて膝蹴りを喰らわされた。 リボルバーシュート――猛烈な衝撃波と共に放たれた魔力の弾丸はバリアによって阻まれた。 お互いの声が漏れるたびに拳と剣が交錯する。 戦況はギンガに圧倒的に不利な状態だ。 数手交わしただけでそれが嫌というほど分かった。 おそらく目の前の相手の力は殺生丸や金髪の男と同等だ。 しかもこちらにはデバイスがなく、魔導師としてそれは戦力の低下を意味している。 今までの数手で自分は持てる技を最大限に駆使したが、全く攻撃が届く気配がない。 まだ奥の手のリボルバーギムレットがあるが、あれはナックルスピナーがない状態では回転させる動作制御が不十分になる。 おそらく威力不足でバリアに阻まれて相手に届く事すら叶わないだろう。 いくらカードで魔力を付与してもデバイスがない以上リボルバーギムレットを出すのは難しい。 (ギムレットが無理なら、もう一つの方に賭けるしかな――って、迷う暇なんてないわね。もう今しかチャンスはない!) 今までの攻防でアンデッドはこちらの力量を掴んできたはず。 それはすなわち己との圧倒的な力の差。 そこには僅かだが余裕という名の隙ができる。 だが奥の手を使えばその差を覆せる可能性はある。 逆転の一手を仕掛けるなら今しかない。 決意すると後は行動するだけ。 ギンガは少し溜めを作り、一気に走りだした。 もちろん向かう先は金色の怪人ギラファアンデッド。 「これで終わりにしようか」 必死なギンガとは対照的にギラファは悠然と構えて言葉を放った。 ここまでの戦闘で彼我の差が明らかである以上それも当然だ。 だがそこに僅かながら隙がある。 そしてそれはギンガが狙っていた事。 徐々に距離を詰めていき後数歩という所で―― 「な!?」 ――ギラファの目の前に光の道が出現した。 今まで見せなかったギンガの先天固有魔法・ウイングロード。 突然目の前に紫の光の道ができた事でさすがのギラファも驚愕を隠せないでいた。 だから一拍遅れて迫ったギンガへの反応が遅れる事になった。 (……私は今まで何もできなかった) 最初は空港火災の時、二度目は地上本部の時。 どちらも自分の責任を貫き通す事が出来なかった。 ここに来てからも同じようなものだ。 最初は殺生丸さん、次に矢車さんとキャロ、そして今度はインテグラ卿。 だからせめて目の前の相手だけは倒す。 ここで放っておけば必ず皆に刃を向ける怪人を。 自分は今度こそ責任を貫かなければいけない。 だからここにいる人を、そしてスバルを―― (――私が守るって、決めたんだ!!! だからフェイトさん、殺生丸さん、あなた達の力、貸して下さい!!!) 刹那デイパックより一振りの傷だらけの刀が抜き出された。 その刀の名は殺生丸の形見となった童子切丸。 それを左手に持たせたままその手を腰だめにして構え、逆に右手は前に突き出す。 カードを全て使って魔力の補充は万全。 あとは撃ち出すのみ。 「プラズマアアァァァァァァァァスマッシャアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――ッ!!!」 至近距離から放たれた魔法は憧れの対象である恩人の技。 オリジナルのような電撃は付与できないが、全カードを使って補充した魔力で威力は十分だ。 ギンガの決意を秘めた左腕が限界まで込められた魔力と共に突き出される。 (この距離ならバリアも――) (――甘いな!!) ウイングロードで作り出した僅かな隙。 だが後一歩及ばず。 目の前にはあの全てを阻む透明の壁が。 それでもギンガは信じている。 煌めく銀河の雷光が必ずや敵を貫くと。 ここで二人が知らない事実がある。 それは童子切丸の特性である「人間の生き血を捧げれば、あらゆる防御術式を貫く事ができる」というもの。 もちろんギラファアンデッドも、ただ形見として拾っただけのギンガも、この特性を知る由もない。 今回ギンガがこの剣を取り出したのは殺生丸の力にあやかりたいという部分が大きい。 だがここで偶然にも奇跡的な事が起こった。 ここまでの戦闘でギンガは身体のあちこちに傷を負っていて、当然そこから血が流れ出ていた。 それが腕を伝って童子切丸に行き着いていたのだ。 正式な形はともかく童子切丸に「人間の生き血」が僅かばかりでも捧げられた事に変わりはない。 それによって妖刀童子切丸はその「あらゆる防御術式を貫く事ができる」という特性を発動させる事ができた。 当然ギラファのバリアも「あるゆる防御術式」にカテゴリ―されるものであり、童子切丸によって貫かれる事は明らかだ。 もちろんそんな事は知らないギラファはここでバリアを展開して攻撃を防いでから反撃に転ずるつもりだ。 しかしギンガの左拳にはその童子切丸が切っ先をギラファに向けた状態で握られている。 この瞬間バリアは無意味となった。 こうして二人の知らない事実の下で童子切丸は計り知れない力の奔流と共に生身の身体に叩きつけられた。 肉と骨を断った剣は役目を終えたかのように根元から折れて眠りに就いた。 限界まで高められた魔力の激流は出口を与えられた瞬間、目の前の敵に叩きつけられた。 そして全てが終わった。 ▼ ▼ ▼ 俺はもう誰も失いたくなかった。 だがこの傷でじゃ遅かれ早かれ死ぬだろう。 少し無茶をしたせいか、血を流し過ぎたかもしれない。 だから最期に俺はこの身を差し出してやる。 ……和尚……寺のみんな……竜馬……隼人……そしてティアナ。 もう誰かが死ぬのは御免だ。 確かにお前は少し胡散臭いところもある。 だがお前のおかげで俺達はあの時無駄に対立する事を防げた。 お前が悪人ならあの時俺達が勝手に仲違して自滅する様を見ていれば良かったはずだ。 だから俺はお前を信じるぜ。 だから……あばよ、金居…… ▼ ▼ ▼ ギンガは目の前の出来事が信じられなかった。 「え……あぁ……そ、そんな……」 ギンガのプラズマスマッシャーは確かに目の前の男に刃を突き立て魔力の奔流をその身にぶつけた。 もちろん童子切丸による出血とプラズマスマッシャーによる衝撃で既に息はない。 だがギンガの顔は青ざめていた。 なぜならギンガと戦っていたギラファはその男の背後に未だ無事な状態でいるからだ。 ギンガのプラズマスマッシャーを金居から庇った男は武蔵坊弁慶。 弁慶はあの爆発に巻き込まれて地面を転がり出血多量もあって気を失っていた。 そして気絶から回復した弁慶の目に飛び込んできたものは襲われているギラファアンデッド、金居の姿だった。 それを見た時もうこの傷ではそう長くないと悟っていた弁慶は自らの身を挺して金居の身代りになる事を選んだのだ。 しかも驚く事に弁慶は童子切丸でその身を貫かれプラズマスマッシャーでその身を焼かれてその命が尽きても倒れる事はしなかった。 まさに伝説で伝え聞く『弁慶の立ち往生』のようであった。 そんな悲劇としか言いようのない結末を目の当たりにしてギンガはただ呆然としていた。 「弁慶君、感謝するよ」 「……ガァッ――ッ!?」 そしてその隙をギラファアンデッドが逃すはずがなかった。 己のした『あやまち』に心ここに在らずの状態にあったギンガの身体にはインテグラと同様に紅い槍が突き刺さっていた。 しかし咄嗟に身体を捻ったおかげで槍が貫いた部分は左腹。 致命傷のインテグラとは違って適切な処置を施せばまだ助かる傷ではある。 「――え? そ、そんな……ぁ……」 だがギンガの身体は限界だった。 自らが犯した『あやまち』と命を奪う一撃。 その二つの衝撃で若い身体はボロボロになっていた。 もう立つ事すら覚束なくなり、すぐに重力に引かれて身体は支えを失って倒れた。 ギラファに握られたままの槍はそのまま身体から離れ、左の腹に紅い穴を形作っていた。 その穴から紅い生き血が止めどなく流れ出ている事にギンガは気付いたが、もうどうする事も出来なかった。 (私は、ここで……なにも、なにもできないまま……死ぬの……?) 少しの間を置いて地面に叩きつけられたギンガの身体が再び動く事はなかった。 ▼ ▼ ▼ 校庭を外界と遮っているコンクリート製の灰色の壁。 その内側に凭れかかった状態で相川始はいた。 その姿はハートのA「チェンジマンティス」の力を宿したカリスの姿ではない。 ハートの2「スピリット」の姿を宿した相川始のものだった。 あの爆発の衝撃でカリスの変身が解けたのが原因だった。 しかもその際に壁にぶつかった衝撃で今まで気を失っていたのだ。 とりあえず一緒に吹き飛ばされたらしいパーフェクトゼクターをデイパックに仕舞いつつ始は今の状況を確認していた。 (俺はどれくらい気を失っていたんだ? カテゴリーキングは? 弁慶は? そして、ギンガ……) ふと思い出すのは先程の一件。 ギラファの斬撃から自分を守ってくれた少女ギンガ・ナカジマ。 ギンガは自分の正体を知った後でも変わらぬ態度で説得しようとした。 そして危険を顧みず自分の命を助けるために戦いの渦中に飛び込んできた。 そこまで自分に関わってくる理由は己の胸に引っ掛かっているあの言葉に関係あると容易に想像がつく。 だが今の自分はそれに応える事はできなかった。 (人間、か。だが俺は……アンデッド……人間な――! なんだ! この気配は!?) その事が胸に引っ掛かりつつもカリスはまだ痛む身体を起こした。 未だ視界が定まらぬ煙の向こうから感じる禍々しい気配。 それが始に悠長に休息を取っている場合ではないと警告していた。 だが自分の感覚を信じるならばそこにいるのはアンデッドではない。 だがそれ以上の何かを感じさせる者がいる事は確かだった。 周囲一帯に立ち込める煙でほとんど何も見えないが、そんなものを感じさせない程にその存在は異常だった。 不意に一陣の風が校庭に吹いた。 それにより立ち込める煙は一掃されていき、三重の煙幕は徐々に晴れていった。 そしてカリスは見た。 紅い血で真っ赤に染まった地面に倒れ伏すギンガと、その脇に立っている赤いコートの男を。 「……貴様が殺ったのか」 「そうだと言ったら、どうする?」 その言葉を聞いた瞬間、相川始の中で何かが弾けた。 不意に頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなるほどに身体の奥底から何かが沸々と湧き上がってきた。 それは言葉に出来ないほどの暗い衝動。 それが自分の本来あるべき姿を呼び覚まそうとしていた。 それは長らく封印してきた自分の真の姿。 それになるという事は真の意味で化け物になる事だ。 だが。 それでも。 湧き上がる衝動は抑えがたく。 ついに。 「――――――――――ァァアアアア――――――――――ッッッ!!!!!」 その暗い衝動に身を委ねた。 次の瞬間、そこに相川始はいなかった。 そこにいる者は『相川始』に非ず、彼の者の名――それは『ジョーカー』。 ▼ ▼ ▼ アーカードの目の前には一つの死体があった。 見慣れた服装、見慣れた髪、そして確認するまでもなく見慣れた顔。 それは紛れもなくアーカードの主インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングに相違なかった。 アーカードがここに来た理由はガジェットの爆発に気付いたからだ。 その爆発音が市街地を捜索していたアーカードまで届き、戦闘の気配を感じるままに赴いた次第だ。 そして一度は去った学校に再び戻った時、アーカードは主インテグラの気配を感じ取っていた。 先程死にかけの女を抱えて去って行った黒い化物を放っておいたのも近くで主の気配を感じたからだ。 それなのに当の主はアーカードを見るなり悠然と命令を与え終わると、それが最期の力かのように静かに逝ってしまった。 「それがお前の最後の命令(ラストオーダー)か、我が主インテグラ」 ――見敵必殺(サーチアンドデストロイ)だ! 我々の邪魔をするあらゆる勢力は叩いて潰せ! そして、あのプレシアを…… その最期の言葉がヘルシング機関の鬼札<ジョーカー>の胸にいつまでも木霊していた。 【1日目 昼】 【現在地 D-4 学校の校庭】 【アーカード@NANOSING】 【状況】疲労(小)、昂ぶり、セフィロスへの対抗心 【装備】パニッシャー(砲弾残弾70%/ロケットランチャー残弾60%)@リリカルニコラス 【道具】支給品一式、拡声器@現実、首輪(アグモン)、ヘルメスドライブの説明書 【思考】 基本:??? 1.主の命令(オーダー)は見敵必殺(サーチアンドデストロイ)か。 【備考】 ※スバルやヴィータが自分の知る二人とは別人である事に気付きました。 ※パニッシャーは憑神刀(マハ)を持ったセフィロスのような相当な強者にしか使用するつもりはありません。 ※第1回放送を聞き逃しました。 ※ヘルメスドライブに関する情報を把握しました。 ※セフィロスを自分とほぼ同列の化物と認識しました。 ※はやて(A's)が死亡した事に気付きました。 ※インテグラの死体(背中に朱羅の片方@魔法少女リリカルBASARAStS ~その地に降り立つは戦国の鉄の城~が刺さった状態)の傍にデイパック(支給品一式)が落ちています。 ▼ ▼ ▼ 相川始は図書館にいた。 なぜ学校にいた始がエリアを隔てた図書館にいるのか。 それはジョーカーの姿に戻って学校から移動したからだ。 だが本来ならジョーカーとして覚醒すれば赤いコートの男に襲いかかったはず。 しかしジョーカーとなった始は戦わなかった。 「……ぅ……!」 読書用に設置されたソファーの上から微かな声が聞こえてくる。 そこには全身血まみれの少女が寝かされていた。 青紫のショートヘアも、茶色の陸士制服も、その身体を沈ませているソファーも自らの血で汚しつつもまだ少女は生きていた。 ギンガ・ナカジマ。 あの時ギンガがまだ生きていると気づいたから始はジョーカーでありつつも逃走を選んだ。 まだギンガを助ける事ができると信じて。 それは先程ギラファから助けてもらった借りを返そうとしたからかもしれない。 だが実のところはそのようなものがなくとも助けようとしたのかもしれない。 本当のところは始にも分かっていない。 「……始、さん」 ようやく気が付いたギンガの声は明らかに弱々しくなっていた。 当然だ。 左腹からの出血はもう手の施しようのないレベルに達していた。 応急措置をしようにもとっくに手遅れの状態だった。 もうギンガが助かる可能性はなかった。 そのギンガは最後の力を振り絞って何かを言おうとしていた。 始はそれを黙って聞いてやる事にした。 「は、始さん……」 「…………」 「わ、私のデイパックの、中の……録音機を、アーカードという人に……渡して……」 「…………………」 「お、お願い……し……」 「……ああ、分かったよ」 なぜか肯定の返事を返していた。 表情には出さなかったが、そんな事をしている自分に驚いていた。 だが不思議と断ろうという気持ちにはなれなかった。 そして始の承諾を得たギンガの顔は安らかなものだった。 「ありがとう……ござ、います。あと……なのはさんと、フェイトさん……はやて部隊長、それにスバルと……キャロに会ったら――」 「…………………………………」 その言葉の続きがギンガから話される事はなかった。 ▼ ▼ ▼ いつのまにか私は始さんに背負われて、そして寝かされていた。 その時はっきりと相川始は人間だと確信できた。 誰かを助けようとする人が化け物であるはずがないと思ったから。 だから安心して録音機の事を頼めた。 あの中にはここへ来る途中でインテグラ卿がアーカードに対してメッセージを入れていた。 本来はインテグラ卿不在時にアーカードの遭遇した時の備えだったが、こんな事になるとは思っていなかった。 あと出来る事なら仲間の事も話しておきたかったが、どうやら時間切れのようだ。 もう既に意識が遠のき始めていた。 ああ、スバル。また守ってあげられなくてごめんね。 そして。 殺生丸さん、私は―― ▼ ▼ ▼ 紅に彩られたソファーに寝かせられたギンガはまるで安心しきったかのように眠っていた。 だがその眠りは永遠である。 もうギンガが目覚める事はない。 それを理解した時、始は胸に言葉に出来ない何かを感じていた。 それが何なのかなぜそのように思うのか自分でもよく分からない。 「何を考えているんだ、俺は……」 その不可解な感情がジョーカーの心を大きく揺さぶっていた。 【1日目 昼】 【現在地 E-4 図書館のロビー】 【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】 【状況】疲労(中)、全身に軽い切傷、左腕に強い痺れ、背中がギンガの血で濡れている、言葉に出来ない感情、カリスとジョーカーに1時間変身不可 【装備】ラウズカード(ハートのA~10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード 【道具】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ 【思考】 基本:栗原親子の元へ戻るために優勝を目指す。 1.とりあえず身体を休める。 2.見つけた参加者は全員殺す(アンデットもしくはそれと思しき者は優先的に殺す)。 3.アーカードに録音機を渡す? 4.あるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。 5.ギンガの言っていた人物(なのは、フェイト、はやて、スバル、キャロ)が少し気になる。 【備考】 ※自身にかけられた制限にある程度気づきました。 ※首輪を外す事は不可能だと考えています。 ※「他のアンデットが封印されると、自分はバトルファイト勝者となるのではないか」という推論を立てました。 ※相川始本人の特殊能力により、アンデットが怪人体で戦闘した場合、その位置をおおよそ察知できます。 ※エネルという異質な参加者の存在から、このバトルファイトに少しだけ疑念を抱き始めました。 ※ギンガを殺したのは赤いコートの男(=アーカード)だと思っています。 ※カリスの方が先に変身制限は解除されます。 ▼ ▼ ▼ 学校で、図書館で、二人のジョーカーが想いを馳せている時、金居は一人東に向かっていた。 目的地は当初の予定通りB-8にある工場だ。 (いくつか誤算はあったが、まずまずの結果だ) 金居は今までの経緯を振り返っていた。 まずはジョーカー――カリスとの戦闘。 この時金居は本気で戦う事はしなかった。 だが一応それなりに戦っていたので精々ジョーカーが違和感を覚えた程度だろう。 このような事をしたのは当初の予定通り弁慶と潰し合わせて漁夫の利でカリスを仕留めようと考えていたからだ。 だからカリスの消耗を待って一気に片付ける気でいた。 あの作戦が破綻した時は少し予定が狂いかけたが、弁慶の捨て身の行動で絶好の機会に転じる事ができた。 ジョーカーの注意を逸らそうと雄叫びまで上げた事が功を奏したのかは知らない。 だがその機会は突然乱入してきたギンガ・ナカジマによって阻まれてしまった。 ここでしばらく膠着状態に陥った時はさすがに本気を出してギンガ諸共カリスを倒す事を優先しようかと考えた。 転機はその直後に起こった爆発だ。 爆発の理由は不明だが、その直前に到着した新たな人物。 その女性はギンガから「インテグラ」と呼ばれていた。 この地でそれに該当する者は「インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング」に他ならない。 そしてインテグラはペンウッド曰く、アーカードの抑えられる唯一の存在らしい。 つまりインテグラを殺せばアーカードを止める者はいなくなり、結果デスゲームの進行に貢献する事に繋がる。 それは金居の望むところだった。 爆発の衝撃はバリアで防いだので即座に行動を再開する事ができた。 そしてすぐにあの煙の中で幸運にもまだ爆発の衝撃から回復していないインテグラを発見できた。 目的は一瞬で終わった。 一気に背後より近付き左手のスケルターで背部を強打。 こちらの姿を見ないまま倒れたところに落とした槍で心臓付近を一突き。 実に呆気ない最期だった。 凶器に槍を選んだのはもしものための保険だ。 ヘルターやスケルターではなく誰でも扱える槍なら下手人が判明する可能性は低くなる。 ついでにインテグラが所持していた銃器を拾えた事は幸運だった。 一番の誤算はその現場をギンガに見られた事だ。 煙で視界が悪いのですぐに済ませれば問題ないと思っていたが、ここは運が悪かった。 だが直後の戦闘でインテグラ同様に槍を刺して殺せたので大した問題にはならなかった。 少し意外だったのは弁慶が身を挺して守ってくれた事だ。 あそこまで仲間想いの奴だとは思っていなかったから少し驚いていた。 だがあそこで弁慶が庇ってくれなければ面倒な事になっていた可能性が高い以上弁慶には素直に礼を言っておいた。 そして直後に得体の知れない禍々しい気配が近づいてきたのを感じたので、その場は弁慶のデイパックだけ回収して立ち去った次第だ。 もし仮に誰かに見られたら不味い場面なのは確実だったので長居はしなかった。 心残りはジョーカーを仕留める事ができなかった事だが、あの様子ではすぐに動く事は難しいだろう。 もし運が良ければあの禍々しい気配と一戦構えてくれればと思うが、そう上手くいかないだろう。 「これが支給されたのは幸いだったな。このおかげですぐに動けるようになった」 金居の手には小さな袋が握られていた。 その中に入っている物こそ金居がこうして戦闘直後にも関わらず不自由なく行動出来ている理由だ。 この袋の中にある物は「いにしえの秘薬」と言って、服用すればどのような傷でも完全に癒し体力も回復してくれる万能薬だ。 これのおかげで本来なら幾らかの負傷と変身後の疲労ですぐには動けない金居が不自由なく動けるのだ。 全体的に今回は上手く立ち回る事ができた。 基本的に戦闘は避けていく方針だったが、止むを得ない時は仕方ない。 ジョーカーとの決着は避けては通れないから。 (とりあえず弁慶君は……ジョーカーに殺された事にしておこう。あながち嘘ではないからな) ふと時計を確認すると次の放送までもう少しというところだった。 これからの具体的な行動方針は放送を聞いてからでも遅くはない。 そう考えを出した金居は落ち着いて放送を聞くために近くのビルに入る事にした。 クワガタムシの始祖たる不死の王の大顎はまだ牙を剥き始めたばかりだ。 【一日目 昼】 【現在地 D-5 西大通り沿いのビル】 【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】 【状態】健康、ギラファアンデッドに1時間変身不可 【装備】なし 【道具】支給品一式×2、トランプ@なの魂、いにしえの秘薬(残り7割)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、砂糖1kg×9、カードデッキの複製(タイガ)@仮面ライダーリリカル龍騎、USBメモリ@オリジナル、S W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、コルト・ガバメント(6/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、ランダム支給品0~1 【思考】 基本:プレシアの殺害。 1.プレシアとの接触を試みる(その際に交渉して協力を申し出る。そして隙を作る)。 2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する、強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。 3.利用できるものは全て利用する。邪魔をする者には容赦しない。 4.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。 5.もしもラウズカード(スペードの10)か、時間停止に対抗出来る何らかの手段を手に入れた場合は容赦なくキングを殺す。 6.USBメモリの中身を確認したい(パソコンのある施設を探す)。 【備考】 ※このデスゲームにおいてアンデッドの死亡=カードへの封印だと思っています。 ※最終的な目的はアンデッド同士の戦いでの優勝なので、ジョーカーもキングも封印したいと思っています。 ※カードデッキ(龍騎)の説明書をだいたい暗記しました。 ▼ ▼ ▼ アンジール・ヒューレーは倒れていた。 目の前でチンクを失った事。 それが想像以上にアンジールを苛み、精神的に負担になっていた。 当初はクアットロを探そうと荷物をまとめようとしていたが、チンクの眼帯を見た瞬間何も考えられなくなった。 ディエチとは違ってチンクはすぐ傍にいた。 それなのに守る事ができなかった。 誰もいない大通り上でアンジールはいつまでも己のあやまちを責め続けた。 そして気づけばアンジールはチンクの眼帯を握ったまま当てもなく歩きだしていた。 だがそんな状態がいつまでも続くはずがなく、程なくしてアンジールは己を苛んだまま地面に倒れてしまった。 そして予想以上に精神的に堪えていたアンジールはそのまま意識を手放した。 だからアンジールは気付く事が出来なかった。 荷物をまとめる際にガジェットがどこかへ行ってしまった事を。 そしてそのガジェットが3人の参加者の命を奪う手助けをした事を。 その中にアンジールと同じように誰かを守ろうと必死になっていた者がいた事を。 全て知らないまま2回目の放送の時刻が近付いていた。 【1日目 昼】 【現在地 G-6】 【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 【状態】疲労(中)、全身にダメージ(小)、セフィロスへの殺意、深い悲しみと罪悪感、睡眠中 【装備】バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、アイボリー(6/10)@Devil never strikers、チンクの眼帯 【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【思考】 基本:クアットロを守る。 1.チンク…… 2.クアットロ以外の全てを殺す。特にセフィロスは最優先。 3.ヴァッシュ、アンデルセンには必ず借りを返す。 4.いざという時は協力するしかないのか……? 【備考】 ※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。 ※制限に気が付きました。 ※ヴァッシュ達に騙されたと思っています。 ※チンクが死んだと思っています。 ※ガジェットが無くなった事に気付いていません。 【武蔵坊弁慶@ゲッターロボ昴 死亡確認】 【ギンガ・ナカジマ@魔法妖怪リリカル殺生丸 死亡確認】 【インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング@NANOSING 死亡確認】 【全体の備考】 ※以下の物がD-4の学校の校庭に放置されています。 弁慶の死体(腹に童子切丸@ゲッターロボ昴の刀身が突き刺さり全身焼け焦げた状態、仁王立ち)、童子切丸の柄@ゲッターロボ昴、朱羅の片方@魔法少女リリカルBASARAStS ~その地に降り立つは戦国の鉄の城~ 閻魔刀@魔法少女リリカルなのはStirkers May Cry、パイロットスーツ(真っ二つにされた状態)@ゲッターロボ昴 ※カード×48@魔法少女リリカルなのはA’sはギンガが全て消費しました。 ※ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerSがD-4の学校まで移動して爆発しました。その際深い煙が発生しました。 ※G-6の大通りにはバニースーツのうさぎ耳、炭化したチンクの右腕が落ちています。 【カード@魔法少女リリカルなのはA’s】 デバイス内での炸裂を必要としない簡易型のカートリッジシステムのような働きをする使い捨ての魔力蓄積装置。 仮面の戦士(リーゼ姉妹)が魔力行使の際に使っていた。普段は左太腿のカードホルダーに収納されている。 【録音機@なのは×終わクロ】 記録用のメモリ式携帯録音機(バッテリー式)。本来の持ち主は佐山御言。 Back Round ZERO ~ JOKER DISTRESSED(前編) 時系列順で読む Next 過去 から の 刺客(前編) 投下順で読む Next 過去 から の 刺客(前編) アーカード Next しにがみのエレジー。~名もなき哀のうた~ インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング GAME OVER ギンガ・ナカジマ GAME OVER 相川始 Next The people with no name 金居 Next MISSING KING 武蔵坊弁慶 GAME OVER アンジール・ヒューレー Next 過去 から の 刺客(前編)
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/862.html
「おい、ハチマキ」 「だーかーら、『スバルお姉ちゃん』。何でノーヴェはギン姉にだけで私には言ってくれないのかな?」 「うるせえ!!それはギンガ姉と他のお姉達だけだ!!」 「会う度にいつもこんな事してるけど飽きないのかな?家でもこんなのなの?」 「そうですねぇ・・・。はいはい、二人ともそれまで。続きは次の機会にしなさい?」 「「はーい」」 なのははギンガ・スバル・ノーヴェ三姉妹を引き連れて歩いていた。格好は新しく一新された管理局の 共通制服の航空総隊バージョン。若干の違いを除けば他の三人の着用している陸上総隊の制服と変らない。 ノーヴェは更生プログラム終了後、ナカジマ家に養子となり一応は末っ子となる。 能力制限は更生プログラムの成績がよかったため殆ど掛けられていない。 四人組が歩くのは殺風景な廊下。人の気配は無かった。 「ほんとにこの道でいいんですか?」 スバルが聞いてくる。 「とりあえず間違いは無いはずだけど・・・」 「たしか情報によると控え室がここら辺にあるはずですよ」 なのはの答えを補足する形でギンガが付け加える。 「しかしまた単純な構造の施設だな」 ノーヴェはあらかじめ渡されていた地図を表示する。幾つかの円筒形の空間と工場地区、 それをつなぐ通路、そして輸送プラントを持つ施設。 「『渡鴉の巣』。かつて数多のレイブン達がレイブン試験を受け巣立って行った所・・・。最近 アリーナが一般に知られるまで場所は秘密だった見たいね・・・」 「鳥頭の巣らしく単純な構造ってか?」 ノーヴェが混ぜっ返す。 「ノーヴェもすぐにかっとなって突撃するじゃない?」 「てめえ!!ハチマキ、もう一遍言ってみろ!!」 「そうやってすぐ熱くなるのが駄目だって、チンクちゃんが言ってたじゃない?」 「・・・今ここであの時のチンク姉の仇討ってやる!!」 スバルは妹ができたのがうれしいのかよく“瞬間湯沸かし器”ノーヴェに話しかけている。 スバルなりの愛情表現なのだが何故か喧嘩になる。二人のやり取りを見ればなぜ殴り合いの 喧嘩にならないのか不思議に思うのだが二人のやり取りを見た人は結局姉妹の痴話喧嘩にしか見えない という感想を持つ。その程度の口喧嘩である。 「二人とも・・・、頭冷やそうか・・・?」 「ドリルで・・・、その頭に排熱孔開けようか・・・?」 「「・・・すいません・・・」」 さすがに仕事中ともあればその程度の痴話喧嘩に付き合う必要はない。 「控え室、ここですね」 「でも人がいねえよ」 「時間はまだ早いと言う訳ではないけど」 「鴉達はお出かけ中、といったところかしら?」 「何か御用ですか?」 いつの間にかモップとバケツを持ったエプロン姿の少女が横に立っていた。 人の気配がしなかったので留守かと思ったがどうやら人はいたらしい。 「あー、ここのお手伝いさん?えーと、レイブンの人たちは今日は来ないのかしら?」 「・・・私もこう見えてもレイブンです。お望みとあれば戦いますか?」 「まあまあ、そういわないで。お名前は?」 いきなりギンガに挑戦しようとする少女を止める為、なのははまずお話から始めようとする。 「エネって呼んでください。コアデバイスはピースフルウィッシュ。今は整備中ですが・・・」 「レイブンさんが何でモップ持って掃除してるのかな?」 「実は私、ランクで言えば下から数えたほうが早いんです。だからこうやってお茶組みしたり 軽い食事作ったり、掃除したり・・・。でもそれでみんなからチップもらってるからいいんですよ」 「私は高町なのは。こっちの三人はギンガにスバルにノーヴェ。三姉妹だよ」 「し、失礼しました!!まさか管理局ののエースオブエースご本人だったとは知らず・・・」 そういうとエネは姿勢を正し頭を下げる。 「いいよ、そんな畏まらなくても。ちょっとお話が聞きたいんだよ」 「お話ですか・・・?」 「そう、昔の話が聞きたいの」 「私はそんな昔から居る訳ではないですから・・・、ここ最近のことでしたら・・・」 「“不死鳥”と言われたレイブン。あなたは出会ったことはある?」 こういう聞き込みは元々捜査畑にいたギンガの方が適切だろう。 そう考えてなのはは話し相手をギンガに任せた。 「私は・・・、アリーナで何度か手合わせをしてもらいました。まったく適いませんでしたが・・・」 「ここに来る事はある?」 「あの人は・・・、アリーナには興味が無いのかここで見かけることは無いですね・・・」 一旦、区切り少し考えるエネ。 「アリーナって言うのは昔のようにレイブン同士が戦ったりするだけじゃなくて情報を交換したり、 仕事上のパートナーを探したり、依頼を探す場所になったりしてるんです。特に今のように レイブンズアークが崩壊して依頼の斡旋組織が機能してない状態ではなおさらです」 「知ってそうな人は?」 「最近、レイブンを雇おうとする人が多いから・・・。仕事が多くてアリーナに来る人も少ないんですよ」 糸が途切れたかな?管理局の四人が同じような事を考えた。それを感じたのかエネと名乗った少女は 「あ、でもアリーナ最古参のレイブンって言われてる人がいますよ」 そういうとエネは隣のソファの裏に寝転がっていた中年の男を起こそうとする。 ぜんぜん気が付かなかった・・・。四人が揃って考えたのはそんなことだった。 「伍長、起きて下さい。伍長!!」 「何だエネか、俺の出番でも来たのか?」 「違いますよ。管理局の人が昔の話を聞きたいって・・・」 「管理局?しかも昔の話だ?」 そういいながら男は起き上がり、なのは達の座っているソファに向かって重い靴音を響かせながら歩き出す。 『お父さん見たいな体系だね』 『いやもっと細い体型だよ』 『どっちにしろヤバイだろ』 『帰ったらお父さんを健康診断に連れて行こうか?』 『『賛成!!』』 『・・・みんな容赦ないね・・・』 ナカジマ三姉妹の容赦ない念話に相槌を打ちながらうちのお父さんも若作りしてるけど一応 健康診断に行ってもらおうかな?そんなことを考えながらなのはは立ち上がり右手を差し出し 握手を求めながら名前を名乗る。 「地雷伍長。本名は必要ないだろう。コアデバイスはデンジャーマイン」 「高町なのは。所属は航空総隊戦技教導隊ですが現在は・・・」 「知ってる。アリーナ万年最下位の俺でも知ってるぐらいの有名人だろ」 「そ、そうですか・・・。こっちはギンガにスバル、ノーヴェ。陸上総隊所属です」 「話するのはかまわんができたらそっちの人数を減らしてくれ。いきなり襲われたりしたら適わん」 「ねえねえ、エネさん?」 難しい話をし始めたなのはとギンガ、そして地雷伍長と名乗った男から少し離れたソファに 座りながらスバルは前に座るエネに話かける。 「えーと、スバルさん、でしたっけ?」 「そうだよ。ちょっとお願いがあるんだけど・・・」 「何でしょう?」 「うちのノーヴェと一戦やってくれない?どうせ暇でしょ?」 そう話しながらスバルは隣に座るノーヴェの頭をなでる。 「この子まだまだ経験が浅くてね」 「ちょっ・・・、ハチマキ、何言ってやがる!!こんな小娘に遅れをとるほど弱くねえよ!!」 「なな・・・、あなたがどんな魔導士か知りませんがこう見えてもレイブンの端くれです!!」 「レイブンだろうがなんだろうが小娘には代りねぇだろ・・・」 「いいでしょう・・・。そっちがその気なら白黒つけましょうか!!」 言うが早いか二人は勢いよく立ち上がりにらみ合う。 「それでは十分後、ドーム・Aに来てください。別に尻尾を巻いて逃げ出しても構いませんが・・・」 「それはこっちの台詞だぁ!!」 「あー、なんか話が変な方向に言ってるような・・・」 ふと視線を感じると冷たい目で見るなのはとギンガと目が合う。 『スバル・・・、後で特別メニューね』 『たっぷり稽古つけてあげるから・・・』 『ご、ごめんなさい・・・』 念話からもなのはとギンガの怒りが感じられた。聞こえてきた声は低く冷たい・・・。 地雷伍長は何がおかしいのか笑いをこらえるのに必死そうにしていた・・・。 「何でレイブンになったの?管理局や他の組織でもよかったんじゃない?」 ギンガはコアデバイス、汎用魔導甲冑を着込み最終チェックをするエネに話しかける。 「家族が病気なんです。だから、・・・少しでも実入りの良い仕事をしようって思って。 こう見えても管理局基準で陸戦B+を持ってるんですよ」 「管理局の局員にならない?陸戦のB以上なら中途採用でも歓迎されるわよ」 「・・・やめときます。世間ではあまり良く言われる事は無いですけど、レイブンの人たちって男女問わず 良い人たちなんですよ?」 「そう、気が変わったらここに連絡して。お父さんの部隊だけど管理局は万年人手不足だから歓迎されるわよ」 考えておきます。そういうとエネは甲冑の重い足音を響かせながらアリーナのゲートへと向かった。 それはそこに眠っていた。かつてプログラムはそれを操り、数多のレイブンを葬り、戦場となれば 敵味方容赦なく弱者を踏み潰してきた。 「力を持ちすぎた者」 ある日、それは上位存在と言うべき存在を失い、その力を振るうべき理由をなくした。 「秩序を破壊する者」 上位存在を打ち砕いた者、レイブンに戦いを挑んだ。そして自身もまた打ち砕かれた。 「プログラムには不要だ・・・」 上位存在を失った後、プログラムは停止したはずだった。 だが怨霊ともいうべき人に近い思考はずっとそのプログラムの目的、力ある者を排除するという目的を 果たそうとしていた。 錆付き、ボロボロになりメンテナンスするものもいない機体達の中から動ける機体を選別、起動。 それらは動くのも厳しいように見えた。 そして一本の通路を目指す。それはアリーナへと続く秘密通路だった・・・。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3404.html
時間は遡り、なのはとレザードの戦いは端から見れば拮抗していると思われる程の戦いぶりを見せていた。 だがレザードの表情には未だ余裕があり、全力を出してはいないであろうと感じるなのは。 一方でなのはは既にブラスター3を発動している状態、このまま拮抗が続けばいずれなのはが敗北するのは必死である。 しかしなのはの顔には焦りを感じている表情は無く、寧ろそれに不気味さを感じるレザードであった。 リリカルプロファイル 第三十八話 覚悟 そんな戦況の中でなのははレザードにレイジングハートを向けてディバインバスターを発射、 しかしレザードは旋回しながらこれを回避し、左人差し指を向けてライトニングボルトを放つ。 するとなのははラウンドシールドを張りこれを防ぎ、続いてアクセルシューターを撃ち放つが、 レザードはアイシクルエッジにて相殺、拮抗が徐々に破られつつあった。 すると其処に一つの影が姿を現す、その正体はフェイトであった。 フェイトはなのはが戦っているこの広場へと足早に向かっていたのだ。 「なのは!助けに来たよ!!」 「フェイトちゃん!スカリエッティは逮捕出来たの?」 なのはの質問にフェイトは口を噤み下を向いて影を潜む表情を醸し出し、その表情に困惑するなのは。 すると対峙していたレザードがその理由を語り出す、スカリエッティはもし自分が管理局に捕らわれる事になったら、 自らの意志で自らの命を絶つ覚悟を持っていたという、つまりはスカリエッティは自害したのだろうとフェイトに代わって答えた。 「そんな………何故!?」 「…それ程までに管理局が気に入らなかったのでしょう……」 肩を竦め小馬鹿にした表情を浮かべながら語るレザード、だが理由はそれだけではなかった。 逮捕されれば懲役を受ける事は明白である、だが管理局には協力を約束する変わりに懲役を減らす制度がある。 管理局は十中八九その制度を用いて交渉をしてくるだろう、スカリエッティは管理局からの脱却が目的である、 それ故に管理局に尻尾を振るぐらいならいっそ自分の手で幕を閉じると言う覚悟があったのだ。 しかしこの事を二人に話したところで理解は出来ないだろう、 レザードはスカリエッティの覚悟を胸の内にしまうと、改めて二人と対峙する。 「まぁ、いいでしょうそんな事は…今重要なのは私の邪魔をする者が増えた…という事実ですから」 「……ずいぶんと余裕ですね」 「それはそうでしょう」 女小娘が二人になったからと言って自分の方が優勢である事は変わりはしない、左手を眼鏡に当て不敵な笑みを浮かべるレザード。 その表情に不快感を現す二人であったが、寧ろ余裕のあるレザードの度肝を抜こうと考え、 フェイトはライオットザンバー・スティンガーを水平に構え、なのはもまたレイジングハートを向けて対峙する。 先ずはフェイトが先行しレザードの懐に入ると左の刀身を振り下ろすのだが、 レザードは右手に持つグングニルで受け止め、フェイトは続けて右の刀身を水平に構え突く。 だがレザードは滑るようにして後方へと回避、更に左手を向けてクロスエアレイドを放つ、 しかしクロスエアレイドはなのはのアクセルシューターによって撃ち落とされ更にレザードに向けてショートバスターを放つ。 するとレザードは急降下してショートバスターを回避し床すれすれを滑走、なのはに向けて衝撃波を放つ。 だがフェイトが間に割り込みスティンガーにて衝撃波を切り裂き、後方ではなのはがアクセルシューターを撃ち放った。 しかしレザードはリフレクトソーサリーを張りアクセルシューターを跳ね返したのだが、間髪入れずにフェイトが接近 左の刀身を左へ薙払うようにして振り抜くがレザードはグングニルにて左の刀身を受け止める。 するとフェイトは右の刀身を左の刀身に合わせ一つにし、ライオットザンバー・カラミティに変えて一気に振り切り レザードはその衝撃に耐えきれず吹き飛ばされるがすぐさま着地、するといつの間にか上空に移動していたなのはが、 レイジングハートをレザードに向けており、ディバインバスターを撃ち鳴らした。 一方レザードは依然として冷静で左手に青白い魔力をたぎらせると、直射砲のようなライトニングボルトを撃ち放ちディバインバスターと激突、 そして見る見るうちに押していく中、なのははカートリッジを一発使用、出力を上げ ライトニングボルトを押し返し始め、最終的に相殺という形で終えた。 一方でフェイトはレザードからかなり離れた後方に移動しカラミティをスティンガーに変えソニックムーブを発動、 金色の一筋と化してレザードに迫るがレザードは全方向型のバリアを張り攻撃を防ぐ。 ところがフェイトはお構いなく何度も切りかかり、まるで無限の剣閃ともいえる程の動きをしていた。 そんなフェイトの攻撃によりバリアに亀裂が走りそれを見たフェイトは更に速度を上げて攻撃、右の振り下ろしが決め手となりバリアを破壊、 するとフェイトはスティンガーをカラミティに変えてとどめとばかりに下から上へすくい上げるかのように振り上げた。 だがレザードはフェイトの攻撃のタイミングに合わせてシールドを張り攻撃を受け止め更に前宙のような動きでフェイトの頭上を舞い床に着地、 攻撃から難を逃れたかに見えたが、レザードの左上空にはなのはが陣取っており、 レイジングハートのカートリッジを三発使用、先端から環状の魔法陣が張られていた。 「ディバイン…バスタァァァ!!」 撃ち放たれたディバインバスターがレザードに迫る中、左手で大型のシールドを張り攻撃を受け止めると、 なのははカートリッジを一発使用、ディバインバスターを強化させ、更に威力が増すとシールドに亀裂が生じ始める。 その後暫くしてシールドが砕け散りレザードはディバインバスターに飲まれていった。 ところがレザードは上空へと移動しており、足下には五亡星の魔法陣が張られていた。 レザードは常に準備してある移送方陣を発動させてディバインバスターの驚異から逃れたのである。 なのはは悔しそうにレザードを睨みつけている中、レザードは驚いた様子で左手の感触を確かめていた。 先程張ったバリアに加えシールドすら破壊された…三賢人の時のように相手を油断させる為にわざと強度の低いシールドやバリアを張った訳ではない。 十分な強度で張っていたのだが彼女達は実力でバリアやシールドを破壊した、それ程までに彼女達の攻撃には威力がある… つまり彼女達は既に三賢人以上の能力を持っている事を指し示しているのであった。 「ふむ…その杖の影響とはいえ、これ程の力をつけていたとは……」 レザードは素直に二人の実力を賞賛する中、なのはの下にシャマルからの連絡が届く。 それは今し方はやてがベリオン及び動力炉を破壊したというものであった。 しかし動力炉を破壊したというのにゆりかごは依然として動いたままである、 それはゆりかごに存在する自己防衛モードによるもので、本体自体に残されている魔力によって飛行を維持されているのであった。 しかしベリオンの破壊…その内容にフェイトはスカリエッティと対峙した時の事を思い出す。 彼はベリオンとゆりかごを使ってミッドチルダを破壊するという計画があった、 だがベリオンは破壊されゆりかごも既に機能としては不完全と化している、 つまりこれはスカリエッティの計画は失敗に終わったという事を指し示しているのであった。 一方でなのは達の報告を小耳に挟んだレザードは眼鏡に手を当てていると、 不敵な笑みを浮かべたなのはがレザードを指差し声を上げた。 「ゆりかごもベリオンも無くなった!これで貴方達の計画は失敗に終わったの!!」 「失敗?まさか…確かにゆりかごは使い物にならなくなりましたが、計画そのものは支障ありませんよ……」 「どうゆう事?!」 レザードは肩を竦め小馬鹿にした表情でなのはの問いに答え始めた。 世界を崩壊などレザードが本気を出せば簡単に導く事も可能である、だがレザードはそれをしなかった。 理由はスカリエッティにあった、スカリエッティは自分の手で枷を外そうとしていた、 その気持ちをくんで敢えてレザードは前に躍り出て行動をせず、知識を与え準備を手伝うまでで止まったと、 結果スカリエッティはゆりかごを復活させ更にレザードから得た魔法技術によってユグドラシルと呼ばれる魔法陣まで造り上げたという。 「何故そこまでスカリエッティの計画に荷担するの!!」 「そうですね……興味があったから…ですかね」 そう言ってレザードは眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべる、もとより深い理由など無かった、 最初に出会ったのがスカリエッティであっただけ、そして彼の計画に興味がわいた…それだけであると、 尤も今はレザード自身にも目的が生まれ、それを実行に移すには管理局という存在は邪魔であると語った。 「貴方の目的って何ですか!!」 「シンプルなものですよ…誰しもが望む事……」 しかし自分の目的は他の者達と違って管理局を敵に回す為に対峙する事となった…それだけであるという、 そしてレザードはゆっくり深呼吸をして一度上を向くと瞳を閉じて黙り、なのは達は固唾をのんでいると暫くして瞳を開き なのは達に目を向け目的を口にする。 「“愛しき者”と一緒になる…それだけですよ」 「…………………えっ?!」 レザードの目的を聞いた二人は暫く固まっていると、レザードが意気揚々に語り出す。 スカリエッティの技術とレザードが御守りとして大事にしていた神の毛によって生まれた存在チンク。 彼女は戦闘機人にしてレザードが愛する神のクローン、彼女と添い遂げる事が目的であり、 それを実行するには規制を促している管理局が邪魔な存在となる、結果スカリエッティと利害が一致した為に協力したのだと語る。 …そんなレザードの身勝手過ぎる理由に二人は睨みを利かせ激怒した。 「狂ってる……そんな理由で世界を破壊しようとしているんですか!!!」 「そうですか?私にとっては意味のある理由なのですがね……」 “愛しき者”と一緒になりたいと言う気持ちは誰しもが持っている感情、だがそれを許さずまた反対する者を裁けるだけの力があれば 誰もがそれを行うであろう…そうレザードは言葉を口にするが、なのははレザードの意見に真っ向から反対する。 なのはにも“愛しき者”がいる、だがもし彼の生まれが特殊であったとして、 自分に反対する者を裁けるだけの力を持っていたとしても行使する事は無いと語る。 「偽善…ですね……」 「そう捉えられるかもしれないけど、少なくとも貴方の意見には賛同出来無い!!」 「それは残念だ……ならば此処等で御退席して貰いましょうか」 するとレザードの足下から青白く光る五亡陣が現れ、青白く光るレザードの魔力が白く輝く魔力に変わり、 レザードの全身は光の粒子に包み込まれ、次に右手に持っていたグングニルがネクロノミコンに戻りレザードの目の前で浮かび光を放つと、 一枚一枚ページが外れ白く輝く魔力に覆われレザードの周りを交差しながら飛び回り、 そしてレザードのマントは浮遊感があるようにふわふわと漂い、レザードの体も同様に漂うと足下の魔法陣が消え去った。 モードIIIカタストロフィ、大きな破滅または悲劇的な結末と言う意味を持つこのモードは レザードが自ら掛けたリミッター全てを外し愚神の力を解放した状態である。 「まさか…ここまで魔力を強化出来るなんて……」 「……何か勘違いしているようですが…これが本来の私の力です」 レザードの放った言葉は二人を動揺させるには充分過ぎる言葉であった、今目の前で放たれている魔力は二人のようにデバイスをリミットブレイクさせた もしくは自己ブーストしたものであると思っていた、だが実際は何て事無い能力リミッターを解放させただけに過ぎないと言うのだ。 しかもレザードの話ではこの力は神から手に入れたのだという。 「そんな……貴方も神の力を手にしているなんて…」 「貴方達のような微力な力と一緒にして欲しくはありませんが……」 「なっ何ですって!!」 「何なら試してみてはどうです?」 そう言ってレザードは二人を挑発すると、二人はその挑発に乗りデバイスをレザードに向けて構え始め、 先ずはなのはがアクセルシューターを八発撃ち出し攻撃を仕掛ける、しかしレザードは舞うようにしてこれを回避、 一方でフェイトはソニックムーブを用いてレザードに接近、依然として回避しているレザードの背後を取り 手に握られたスティンガーをカラミティに変えて絶好のタイミングで振り下ろす、 だが魔力刃はレザードの体をすり抜け、すり抜けた所は光の粒子を化しており暫くして肉体に戻っていった。 「どっどうなっているの?」 「ふっ…貴方達ではこのアストラライズされた肉体を傷付ける事など出来はしないという事ですよ」 そしてレザードは右人差し指をフェイトに向けるとレザードを覆う光の粒子の一部がグングニルに変わり発射、 フェイトはカラミティの魔力刃を盾にしてグングニルを防ごうとしたが、呆気なく刃は砕け散り腹部を貫き通した。 一方でなのははレザードに向けてエクセリオンバスターを発射、放物線を描くようにしてレザードに迫っていくが、 レザードは肉体を光の粒子に変えてこれを回避、更になのはの足下を光の粒子による爆発を起こし、しかも離れた距離に移動していた。 一方で床に伏せ腹部を貫かれたフェイトは痛みに耐えていると、光の粒子の爆発に巻き込まれ高々と舞い上がるなのはを目撃、 すぐさま近づき安否を心配するとなのははゆっくりと立ち上がり、遠くでほくそ笑んでいるレザードを睨みつけた、どうやら命に別状はないようである。 「くぅ………此処まで…差があるなんて…」 「ふっ…やっと理解出来ましたか」 ほんの少し戦闘を行っただけではあるのに、レザードとの圧倒的な差を痛感する二人。 此方の攻撃は一切通用しない、魔力も身体能力も遥かに向こうが上回っている、どうあがいても“二人”では勝ち目がなかった。 ならば最後の手段を執るしかない、なのはとフェイトはお互いに見つめ合うと小さく頷き腰に添えてあった杖に手を伸ばす。 「ほぅ…まだ何かする気なのですか?」 「…私達は…諦めが悪いんだよ!」 なのはは一言口にして右手に持つ杖に魔力を、フェイトは左手に持つ杖に魔力を込める。 するとなのはの足下に赤い三角形が三つ均等に並ぶ魔法陣が、フェイトの足下にも同じ模様の青い魔法陣が張られ、 杖が力強く輝き出すとまるで祈るようにして瞳を閉じ二人同時に杖を魔法陣に突き刺す。 すると魔法陣は更に強く輝き出し光の柱となって辺りを照らし始めると、二人の頭上から 黒いローブを纏い背中にそれぞれ赤と青の計六枚を翼を生やし、頭には天使の輪がついた 流浪の双神を呼び出し光が落ち着いていくと、突き刺した杖がまるで灰のようにして跡形もなく消えていった。 一方でレザードは二人が呼び出した者が分かったらしく流石に驚きの様子を隠せずにいた。 「まさか…神を召喚するとはな……」 「ほぅ…成る程、我々の力を借りたいと言うのがよく分かる」 イセリアクイーンはレザードの肉体に宿る力を感じ、なのは達が協力を仰ぐ理由を理解する、 それほどまでにレザードの能力は常軌を逸していたのだ、そして流浪の双神は右手に杖を携えレザードに向ける。 「貴方には悪いが、これも契約なのでね…」 「神が二体…少々楽しめそうだ……」 流浪の双神を目の前にしても未だ余裕のある様子を浮かべるレザード、その反応になのはとフェイトは不安感を覚える中、 戦闘が開始され先ずはレザードが牽制としてアイシクルエッジを二人目掛けて撃ち出すが、 二人は手に持つ杖でいとも簡単に防ぎ、次にガブリエセレスタが杖を振り下ろす。 ところがレザードはグングニルを形成しガブリエの攻撃を受け止める、するとイセリアが時間差でレザードに攻撃を仕掛け 貫くようにしてレザードの腹部を狙い撃ち直撃、勢いよく吹き飛ばされるレザードであるが、 右手を向けてクールダンセルを放ち氷人形が二人の前で襲いかかる、だが二人は冷静に対処に当たり杖で氷人形を打ち砕いた。 「流石に神の前ではアストラライズは意味をなさないか……」 「当然だ、肉体を幽体にする事など造作もない」 レザードを一目見た瞬間から幽体化している事を見抜いた流浪の双神は、同じく肉体を幽体に変えて対処に当たったようであり、 これはレザードのアストラライズを無効化された事になる、だがレザードの表情には焦りの様子が無く その表情を遠くで見上げているなのは達には不安を募らせていた。 一方場所は変わり此処スバル達とチンクが戦闘を繰り広げている広場では、 スバルのナックルダスターをマテリアライズで形成した左の盾で防ぐチンクの姿があった。 「くぅ!やっぱ堅い!!」 スバルはカートリッジを一発使用してナックルダスターの威力を高めるが、一向に砕け散る様子がない盾。 一方でエリオは距離を離しストラーダを向けてカートリッジを二発使用、先端部分から魔力刃が形成されると一気に突撃、 まるで弾丸を思わせるような速度でチンクに迫っていく、一方でエリオの存在に気が付いたチンクは スバルの攻撃を流すようにして盾を傾け見事に受け流すと、その場で一回転しエリオに目を向け、 右手に携えた刀身を振り上げ魔力刃ごとエリオを高々と吹き飛ばした。 だが上空にはキャロが待機しており、フリードリヒに指示を促しエリオを回収、更にブラストレイをチンクに放つ、 ところがチンクはブラストレイを既に読んでおり既に移動して回避、カートリッジを一発使用すると脇差しのような小型の刀を二本生成、 勢い良くキャロに向かって投げつけるが、脇差しはティアナのクロスファイアによって撃ち落とされた。 するとチンクを囲うようにしてクロスファイアが六発向かってきており、チンクは盾を使って弾こうとしたところ盾は光の粒子となって消滅、 一つ舌打ちを鳴らし悔しそうな表情を浮かべるも、クロスファイアを右往左往しながら回避し更に右手に持つ刀身にて三発打ち落とした。 ところがクロスファイアは更に五発追加されて迫ってきており、チンクはまたもや一つ舌打ちを鳴らすと、 左手で床の一部を掴み取り、原子配列変換能力を用いて長刀の刀を形成し、右の刀身と左の刀によって次々にクロスファイアを撃ち落としていく。 その時である、チンクの後方からスバルが勢い良く右拳を振り上げており、拳には衝撃波が纏っていた。 「リボルバァァ!キャノン!!」 だがスバルの気配に気が付いたチンクは左の刀を盾代わりにして攻撃を受け止めると、 今度はスバルの拳のカートリッジを一発使用してスピナーを高速に回転させて衝撃波を撃ち出すリボルバーシュートを撃ち抜き、 左の刀は二つに折れ衝撃波はチンクの胸元に突き刺さり吹き飛ばされていく。 だがチンクは吹き飛ばされながらも自身のISであるランブルデトネイターを用いて刀を爆破、 スバルは爆発に巻き込まれ周囲は土煙が舞い散り、暫くして落ち着いていくと 其処には全方向型のプロテクションを張り爆発から逃れたスバルの姿があった。 「やはり…間に合っていたか」 チンクは一つ舌打ちを鳴らしスバルと対峙している中、攻撃後オプティックハイドを発動させて 姿を隠しているティアナが今までのチンクの戦闘を基に分析を行っていた。 先ずスバルから予め聞いていたチンクの能力であるが、マテリアライズは魔力を原料として生成、非破壊効果を持つが三分程度で消滅する、 一方で原子配列変換能力は物質などの媒介を魔力によって変換させる為に消滅する事は無いが非破壊効果を持たない、 しかしあの爆発能力であるランブルデトネイターにより爆弾に変える事が出来るようなのだが、 確かな威力を誇るには三分以上時間を要するようで、マテリアライズで生成した武具では時間的にも非破壊効果的にも不可能である可能性が分かった。 そしてチンクは動きを先読みすることが出来るようで、此方の攻撃や行動の先の動きを行っていた。 しかし先読み出来るのはチンクが見た対象のみ目線から離れた若しくはティアナのように隠れた対象の動きは先読み出来無いようである。 つまり背後もしくは目の届かない場所からの攻撃が有効なのであるが、 チンク自身も危機察知能力が高い為か、中々思うようにいかないのが現状である。 「でも今はこれしか打開策が無いか……」 結局のところこれ以上の有効な対策が無い為に引き続き指示を送るティアナであった。 一方でスバルと対峙しているチンクは先手を取りスバルに攻撃を仕掛ける、 だがスバルは依然として全方向型のプロテクションを張り巡らせたままでチンクの攻撃を受け続けていた。 「成る程…考えたな」 どうやらスバルに攻撃の目を向けさせる事により、他のメンバーの行動を先読みさせないよにする作戦のようである。 一方でエリオはフリードリヒの背中にてキャロからフィジカルヒールを貰い体力を回復させると、 フリードリヒから飛び降り床に着地、ストラーダをチンクに向けてカートリッジを三発使用、 メッサーアングリフを放ち見る見るうちにチンクに迫る。 「甘いな、その程度の動き先読みしなくても分かるわぁ!!」 チンクはエリオの攻撃を半歩体をずらして容易くかわし不敵な笑みを浮かべるが、 エリオは急速停止し左足を滑らすようにして反転、左の裏拳による紫電一閃を打ち抜こうとした。 ところがチンクは腰を素早く下ろし裏拳を回避、更にスライディングキックにてエリオを迎撃、 するとエリオの攻撃に続けとばかりにスバルが飛び出し、右手にはスピナーの回転により螺旋状と化した振動エネルギーを纏っていた。 振動拳と呼ばれるスバルのISである振動破砕を用い、持てる技術を尽くし完成させた必殺の一撃である。 一方でスバルの拳を目撃したチンクは危機感を感じマテリアライズにて大型の盾を生成し備えた。 そして激突、辺りには振動拳の衝撃が伝わり床を削るようにして破壊、チンクもまた盾とともに床を削りながら吹き飛んでいく。 だが盾を破壊する事は出来ず盾が消滅すると無傷のチンクが顔を覗かせていた。 「これでも…駄目なのか……」 スバルは絶望の淵に追いやられたかのような表情を浮かべている中でチンクに異変が訪れる。 それはチンクの表情が痛みに耐えているような顔つきで更に左膝をついたのだ。 今までとは異なる反応にティアナは一つ確信する、マテリアライズされた武具は破壊する事は出来ない、 だが武具に受けた衝撃全てを受け止められる訳ではない、本来であれば破壊される程の衝撃を受ければ その衝撃は武具を通し本人に伝わり、そのままダメージを負うという事であると。 つまりは強烈な攻撃であればたとえマテリアライズされた武具でもダメージを与える事が出来る訳である。 そしてチンクを撃破するに当たって一番要なのが一撃の威力に定評があるスバルであった。 一方でチンクは自分が受けたダメージが思っていた以上である事に驚きを感じ、またスバルに警戒を浮かべていた。 これ以上攻撃を受ければ敗北するのは必死、憂いは経たなければならない…そう考えたチンクは真っ先にスバルを始末する事に決めた。 「貴様から先に叩いてくれる!!」 「そうはさせない!!!」 するとエクストラモードを起動させたエリオが割って入り、左拳に雷を纏わせ自身最速のソニックムーブにてチンクの懐に入る。 一方でチンクはエリオの行動を先読みし、攻撃を避けられないと悟るや否やマテリアライズにて大型の盾を形成した。 しかしエリオはお構いなく盾の上から何度も紫電一閃を連打しチンクを釘付けにする、 そして更にカートリッジを全て使用して右手に持つ小型化したストラーダに魔力を込め何度も盾を突き刺した。 「奥義エターナル!!レイド!!!」 最後に魔力と雷を込めた突きが盾に響き、その衝撃により盾ごと吹き飛ばされるチンク しかしエリオの攻撃を防ぎきったチンクは反撃を行おうと睨みつけるとエリオが声を荒らげた。 「今です!ティアナさん!キャロ!!」 チンクは辺りを見渡すと右上空にはエクストラモードを起動させ、フリードリヒの胸元に存在する竜紅玉に魔力を溜め込みいつでも撃てる用意があるキャロと、 少し離れた左側にエクストラモードを起動させクロスミラージュを水平に構え、その中心を軸に巨大なエーテルの球を作り出し、いつでも放てる用意があるティアナがそこにいた。 どうやら二人はエリオの攻撃の最中に準備を始め、エリオの攻撃が終わる頃を見計らって攻撃出来るように準備を整えたようである。 『奥義!!』 「ドラゴンドレッド!!」 「エーテルストラァァァイク!!」 エリオの合図の下、間髪入れず撃ち放たれた二つの強力な一撃がチンクに迫る中で、 もう一度マテリアライズを行い、同じ大きさの盾を用意して防御に当たるチンク。 そして激突と同時に大爆発を起こし、辺りには衝撃波が走り巨大な土煙がチンクを覆い隠す中 土煙が落ち着き始めると其処には巨大な盾に身を守られていたチンクの姿があった。 「そんな…効いてないの?」 「………いや!効いてる!!」 盾が光の粒子となって消滅した瞬間、チンクは左膝をつき表情に曇りの色を見せ、ティアナは最後であるスバルに目を向け指示を送る。 だがその一方でチンクの足下には多角形の魔法陣を幾重にも張り巡らせており、何処からともなく声が聞こえ始めた。 「汝…其の諷意なる封印の中で安息を得るだろう…永遠に儚く……」 「いけない!広域攻撃――」 「セレスティアル!スタァァァ!!」 チンクを中心に輝く羽が舞う複数の光の柱が立ち上り、更に広がっていくとティアナ・エリオ・キャロそしてスバルを飲み込んでいく。 そして辺りは光に包まれ暫くして光が落ち着いていくと其処には床に這い蹲ったエリオ・キャロ・ティアナの姿があった。 だがその中で全方向型のプロテクションを張っていたスバルだけがチンクの攻撃耐え抜いた姿があり、 スバルの姿を見たチンクはカートリッジを全て使用、足下に白い五亡星の魔法陣を張り 全身を白く輝くまるで白金を思わせる魔力で包み込むと、半身を開き構え素早くスバルの懐に入る。 そして矢のようなスライディングで足下を攻撃し後ろを取った瞬間に振り下ろし、間髪入れず振り上げスバルの体を浮かせる。 更に右からの袈裟切り、左からの払い、そして下から切り上げ更にスバルの体を宙に浮かせると、 巨大な槍が三本スバルの左右の脇腹から肩にかけて、脊髄から腹部にかけて突き刺す。 そして剣を納めスバルの頭上まで飛び上がると背中から光の翼を生やし、翼が光の粒子となって右手に集うと巨大な槍に変化した。 「これで終わりだ!奥義!!ニーベルンヴァレスティ!!!」 そう叫ぶと槍は白く輝く鳥に変わりスバルを貫く、そして白色の閃光は大きな粒上に変化 スバルを中心に集い圧縮され暫くして大爆発、辺りには爆音と共に衝撃波が響き渡り土煙が覆われていた。 「す………スバルゥゥゥゥゥゥ!!!」 ティアナの悲痛な叫びが辺りに響き渡る中でチンクは静かに着地、だが連続のマテリアライズに広域攻撃魔法、 更にはカートリッジ全てを使用したニーベルンヴァレスティと魔力を大量に消費した為、 かなりの負荷が体にのしかかったらしく左膝をついて肩で息をしていた、だが憂いでもあったスバルは倒れ他の仲間も床に伏している、 チンクは勝利を確信した表情で顔を上げると、土煙の中から腕をクロスに構え、チンクの攻撃に耐え抜いたスバルの姿があった。 「ばっバカな!!私の最大の奥義を耐え抜いたというのか!?」 「次は……コッチの番だぁぁぁ!!!」 スバルは両拳を握り締め足を肩幅まで開き構えると両腕のカートリッジを全て使用、大量の赤い魔力が炎のように溢れ出し 両拳には螺旋状と化した振動エネルギーを纏い、両足には赤い翼のA.C.Sドライバーが起動していた。 そして一気に加速し一瞬にしてチンクの懐に入るや否や、右のナックルダスターがチンクの胸元に突き刺さり、 続いて両拳からの上下のコンビネーションであるストームトゥースにマッハキャリバーとの息のあった拳と蹴りのコンビネーション、キャリバーショット そして左のナックルバンカーがチンクの顎を捉え跳ね上げると、右のリボルバーキャノンが腹部に突き刺さってめり込み 更にスピナーの衝撃を放つリボルバーシュートにてチンクを高々と舞い上がらせる。 すると今度はウィングロードを伸ばして滑走、チンクに追い付くと環状の魔法陣が二つ張られ 加速された赤い魔力球が握られた右拳をチンク目掛けて振り下ろした。 「奥義!ブラッディィ!カリスッ!!!」 振り下ろされた右拳はチンクの腹部に突き刺さり九の字に曲げると、そのまま垂直落下とも言える角度のウィングロードを滑走、 床に大激突し辺りに激しい衝撃が走る中でその中央ではスバルの拳をきっかけに、赤い魔力と混ざった振動エネルギーが波のように溢れ出しチンクの身を何度も叩きつけ 甲冑や兜は砕け散りスカートはボロボロ、そして左耳に取り付けてあったデバイスは砕け散ったのであった。 母のシューティングアーツに機動六課での特訓、リボルバーナックルの性能にエクストラモードの能力、 更にはスバルの今までの戦闘経験やセンス最後にISによって完成されたブラッディカリスはまさに一撃必倒と呼べる威力を誇っていた。 そして放たれた赤い魔力が落ち着くと其処には眼帯を失い、至る所が切れてボロボロの戦闘スーツ姿に戻ったチンクが仰向けの状態で倒れており、 チンクの姿を見たスバルは勝利を確信したと同時に両膝を付き肩で息をしていた。 するとスバルの勝利を祝ってかティアナ達が集まり激励を送るのであった。 時はチンクが撃破される前まで遡り、イセリアは女王乱舞にてレザードを攻撃、 だがレザードはシールドを張って攻撃を全て防ぎその中で詠唱を始め、ファイナルチェリオをイセリアに向けて反撃した。 だが一方でガブリエが接近し右手に持つ杖を振り下ろすがレザードはグングニルで防ぎ難を逃れる、 その間に攻撃に耐えたイセリアが背後を取り杖を振り抜きレザードを吹き飛ばすが、 レザードは右手を向けて直射型のライトニングボルトを放ち、イセリアはシールドを張ってこれに対抗した。 一方なのは達はレザードと流浪の双神の熾烈な戦いに唖然とした表情を浮かべていた。 するとなのはの下へティアナからの連絡が届く、それは今し方スバルがチンクを倒したという内容であった。 一方なのはの報告に小耳に挟んだレザードは動きを止め驚愕な表情を浮かべすぐさまモニターを開くと、 其処には仰向けで倒れているチンクの姿が映し出されていた。 「バカな…私の“レナス”が………」 レザードは頭を押さえ、まるでこのような結末を望んでいなかったと思わす表情を浮かべ、うなだれていた、 一方でなのは達は勝利を確信した表情を浮かべていた、戦況はこちらが優勢 しかもフェイトから聞いていた計画の要でもあったチンクは此方の手中にある、そして他のメンバーも此方に集うであろう。 そして流浪の双神も存在する、もはやレザードは袋の鼠状態、これ以上の抵抗は無意味であるとなのはが伝える中、 微動だにせず依然として俯き頭を手で押さえ、うなだれてるレザードの姿にフェイトが声を荒らげる。 「何か言ったらどうです!!」 「…………………」 しかしレザードは答えず長い沈黙が続き動きが一切無い中、レザードの体から金色の砂のような物が次々に垂れ出し、 それは床に落ちて徐々に広がり部屋全体を覆い輝かせる。 「なにこれ?!」 「術式………かな?」 それはよく見ると文字のようで部屋全体に書かれたのだろうと言うのがフェイトの見解である、 すると今まで沈黙していたレザードが静かに言葉を口にし始める。 「…たかが一介の魔導師が私の計画を潰し、あまつさえ我が“愛しき者”を傷付けるとは……」 次の瞬間なのは達の体に異変が起きる、それは今までとは異なり体に負荷がのしかかり、 それはまるで能力リミッターを掛けられた時と同じような感覚を覚えていた。 なのは達は自分の体の異変に戸惑っていると、レザードが振り返り押さえていた手を降ろしその表情は怒りに満ち鬼の形相と化していた。 「――許せん!!!」 自らのお気に入りであり“愛しき者”であるチンクを傷付けた罪は重い、そう口にすると左手を掲げるレザード そして――― 「跪け!!」 左手を振り下ろした瞬間、何かがのし掛かったかのように全身が重くなりなのは達は床に伏し、その光景はまさに跪いているかのようであった。 その中でイセリアがゆっくりと立ち上がりレザードに向けて杖を振り払い衝撃波を生み出す。 だがレザードは迫ってくる衝撃波をまるで埃でも払うかのようにして右手を払いかき消した。 「どっどうなってるの?!」 「なる程な……」 なのはは戸惑う中イセリアが説明を始める、レザードの体から放たれたこの術式により 肉体・魔力更には攻撃の威力まで十分の一以下にまで押さえつけられているのであろうと語る。 一方でレザードは再び左手を掲げなのは達を浮かばせると左右の壁、上下の床や天井に次々にぶつけ更に叩き落ととすようにして床に激突させた。 「殺しはしない!死んで楽になどさせるものか!!」 すると今度は大量のイグニートジャベリンを用意して一斉に発射、なのは達の身を次々と貫いていく、 だがレザードの攻撃は終わらず続いてダークセイヴァー、アイシクルエッジ、プリズミックミサイルなどを次々撃ち抜き 必死の形相で回避またはバリアやシールドなどで防ごうとした、しかしレザードの放った魔法の威力はそれらを簡単に打ち砕きその身に浴び次々に倒れていくなのは達。 そして最後にレザードは詠唱を破棄してファイナルチェリオを撃ち放ち、その衝撃により床壁などを吹き飛ばした。 「どうしましたぁ!?この程度で終わりですかぁ!?」 レザードは尚も挑発を促しなのは達を立たせていく中、なのは達の表情は絶望に支配されていた。 此方に攻撃を仕掛ける暇も与えず、もし攻撃出来たとしても大したダメージを与える事が出来無い、 更には流浪の双神すら手玉に取られている状況、正に今のレザードは“破壊を求める者”といっても過言ではなかった。 そんな状況になのはとフェイトは塞ぎ込んでいると二人の下へ流浪の双神が駆け寄り二人に話しかけた。 「一つだけ…奴に対抗出来る手段がある……」 「えっ?それは一体?!」 「私達との融合…ユニゾンと置き換えてもいい」 二人のどちらが流浪の双神と融合する事により一時的にレザードと対等の力を得ることが出来るという、 だが神とのユニゾンは大きなリスクを伴い、下手をすれば器となった存在の魂が消滅する可能性を秘めていた。 つまりレザードとの実力差を埋めるにはそれ程までのリスクを背負わなければならないと言う事である。 すると神の話を聞いたなのはが覚悟を秘めた表情を浮かべ言葉を口にし始める。 「だったら私が―――」 「私を器にして下さい!!」 「―――フェイトちゃん?!」 なのはの決意を遮るかのようにフェイトは言葉を口にし困惑するなのは。 するとフェイトが説明を始める、なのはにはユーノやヴィヴィオなど大切な人がいる、その人達を泣かせる訳にはいかない、 だからなのはの代わりに自分が器になると告げるとなのはは反発した。 「何言ってるの!フェイトちゃんにもエリオやキャロが―――」 「二人なら私がいなくても大丈夫だから」 先だってのスカリエッティとの戦いで見せた二人の決意、それを耳にしたフェイトは二人が自分の下を巣立ったのだと確信した それになのはは自分の命を救ってくれた、その恩を返す為にも今ここで自分が器になる、そう覚悟を決めたのだという。 「なのは……みんなの事をお願―――」 次の瞬間なのははフェイトに当て身し気絶させると、悲しい表情でフェイトを見つめるなのは。 いくらフェイトの願いであってもそれを受け取ることは出来なかった、何故ならレザードとは自分の手で決着をつけたかったからだ。 ホテル・アグスタを始め地上本部での二度の敗北、そしてヴィヴィオを誘拐され絶望の淵に追いやられた。 それらを払拭する為にも自分の手で行わなければならないと覚悟を決めていたのだ。 「……良いのだな?」 「覚悟はもう…決まってるの!」 なのはの決意ある瞳を見た流浪の双神は小さく頷き、気絶するフェイトから離れ三人はレザードに近づくと、今度は流浪の双神がなのはとある程度距離を置く、 そして足下に巨大な三角形が三つ均等に並ぶ魔法陣を張り巡らせると、今まで沈黙を守っていたレザードが見下ろす形で言葉を口にする。 「まだ悪足掻きをするつもりですか?」 「言ったの…私は諦めが悪いって!!」 するとなのは足下に流浪の双神と同じ桜色の魔法陣が張られ輝き始めると、それに呼応するように流浪の双神の魔法陣も力強く輝き出す、 そしてその輝きは一種の壁となり三人は声を合わせて言葉を口にした。 『ユニゾンイン!!』 「何ぃ?!」 流石のレザードも驚きの表情を浮かべていると、流浪の双神はそれぞれ赤と青のエネルギー体になり更に球体に変化、 魔法陣ごとなのはに近付き胸元に吸い込まれていくようにして収まると、次の瞬間大量の桜色の魔力が天井を突き破るかのようにして溢れ出し魔力がゆっくり収まっていく。 其処には背中に桜色の六枚の翼を生やし胸元の黒い部分は透けて谷間が強調されたロングスカート型のバリアジャケット 足下は金で装飾された金属製のハイヒール型の具足に変わり外側の両足首部分からは桜色の翼が生え、 結っていたリボンが無くなり髪型はストレートヘアー、更に桜色の天使の輪が浮かんでいた。 そしてレイジングハートは力強くまるで冷え切っていない溶岩のように赤いクリスタルが輝き、 ストライクフレームから現れる魔力刃は鋭く分厚く左右からは四枚の小さな翼が生えていた。 なのはの変貌にレザードは依然として唖然した表情を隠せないでいると、 今まで瞳を閉じていたなのはの瞳が開き、金色に輝くその瞳でレザードを突き刺すように睨みつけた。 「覚悟っ!!」 「一介の小娘が神とユニゾンだと……いいだろう相手をしてやろう!!」 するとレザードは、まるで北極星を思わせるようにして力強く輝き白金のような色と化した魔力を高めていき、 一方でなのはは自分の体を確かめるかのようにして体を動かし、レイジングハートの先端をレザードに向けて対峙する。 いよいよ戦況は最終局面を迎えるのであった……… 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2334.html
魔道戦屍 リリカル・グレイヴ Brother Of Numbers 第九話「夢」 守りたかった、大切な人をただ守りたかった。 見ず知らずの人間に鉛の弾を叩き込み屠る、その理由はたったそれだけだった。 「ブランドン」 暗い闇の中で懐かしい声が聞こえる。 それは守るべき組織の掟、慕うべき組織の長、組織(ミレニオン)のそのものとでも言うべき“あの人”の声だった。 「どうしたんだ、ブランドン?」 懐かしい声に俺は目を覚ます。 開かれた“両の瞳”に映るのは見覚えのある景色“あの人”と共によく過ごした緑と川のせせらぎだった。 そして俺の前にはかつての尊敬すべきボスがいた。 「どうしたんだねブランドン?」 「ビッグ・・ダディ・・・」 小川のほとりに立った初老の男は俺に語りかける。 それは俺の最愛のファミリーの一人だった尊敬すべきボス、ビッグダディ。 ビッグダディは不思議そうな表情で俺の顔を覗き込んできた。 気付けば、俺はビッグダディと一緒に川のほとりで竿をたらしていた。 「ボーっとして、最近はそんなに仕事が忙しいのかね?」 「・・・・いえ・・」 これは夢だとすぐに気が付いた。 俺の右目はハリーに撃たれた、ビッグダディは死んだ、これはあの日の・・・俺がまだ生きていた頃の記憶だ。 周囲を見渡せば記憶に残る森と小川が鮮やかな光景を映し出している、夢とは思えないくらい鮮明だ。 よくビッグダディとこの川で釣りをしていた事を思い出すのにそんなに時間は必要なかった。 俺はビッグダディに視線を戻す、ダディはあの頃と変らず。 「ビッグダディ・・」 「なんだねブランドン?」 「ビッグダディは・・・・守れなかった事はありますか? ファミリーを・・愛する者を・・・」 俺の質問にビッグダディは少し虚を付かれたのか少しだけ、本当に少しだけ俯き黙った。 そして顔を上げると静かに、本当に静かに口を開いた。 「ああ、あるさ。何度も・・・そう、数え切れない程にあるよ」 「・・・・」 重い、ただ言葉の残響が重いんじゃない。 そこに込められた後悔が悲しみがそして過去が重かった。 「なあブランドン。私はこう思うんだ、人は無力だと・・・」 「・・・無力・・ですか?」 「マフィアのボスであり、この街の・・・いやこの国の多くの権力を掌握する私ですらそう思う・・・人は無力だ。例えどんな力を以ってしても全てが守れる訳ではないのだとな・・」 「・・・」 俺は何も言えなかった。 人の身を捨て死人になってなお、多くの仲間をファミリーを守りきれなかった俺にその言葉はあまりにも重く濃い。 「だがブランドン・・・私はこうも思う、人は無力だとしても守るという行為は決して無意味ではない。一握りでも良い、たった一人でもファミリーを守れるのならそれは有意義なものだよ」 「ビッグ・・ダディ・・・」 瞬間、夢の像は幻と霧散した。 意識は再び元の時間へと飛び、ただ当てどない闇を彷徨い始めた。 △ 「彼の具合はどうだい?」 地下深くにその居を構える研究施設、そしてそこの主ジェイル・スカリエッティはいつものと変わらぬ声の調子でそう尋ねた。 質問を投げられた機人の長女もまたいつもと変わらぬ冷静な声で返答した。 彼らの目の前に映るモニターには隻眼の死者ビヨンド・ザ・グレイヴが座して静かに眠り、死人兵士の命綱である血液を交換している。 ここはスカリエッティが居を構える地下施設。 先の戦いで傷ついた死人の様子をこの施設の主であるスカリエッティ、そして彼の秘書である機人長女ウーノとグレイヴの身を案じるチンクが眺めていた。 「血液交換、体組織再形成ともに問題なし。すべて順調です」 「ふむ、流石は死人兵士だ。死に難さ、いやこの場合は表現が間違っているかな? 壊れ難さは想像以上だねぇ」 スカリエッティの言葉に、その場にいたチンクが少しばかり敵意を込めた鋭い視線を隻眼から投げた。 ナンバーズの中でも戦闘経験ならば二番手にはなるチンクの眼光、流石にこれにはスカリエッティも少しばかり肝を冷やす。 「ハハッ、そう睨まないでくれよチンク」 スカリエッティはそう言いながら苦笑した。 彼はこれでも生みの親である、チンクは理性で心の内に点火された怒気を消火、同時に眼光から鋭さを消す。 チンクは視線をモニターに移して眠る死人を心配そうに眺めた。 常人ならば致死必至の重症でも、彼にとっては血を入れ替えるだけで修復できる筈だ、現にもう全快に近づいている。 だがそれでも機人の少女の不安な心は消えない。 先の戦闘でオットー・ディード・トーレは行方不明、ルーテシアとゼスト・アギトも通信途絶、それ以外の多くの姉妹はチンクを含めなんとか帰還しながらも謎の第三勢力との戦いで傷ついた。 そして地上本部での戦闘の際、自分を逃がす為に傷ついたグレイヴの事を思うとチンクの胸は張り裂けそうだった。 「ん? このパターン、脳波の波形が妙だねぇ」 「なっ! それは何か異常でもあるのかドクター!?」 スカリエッティがモニターに映る数値を見ながら何気なく言った言葉にチンクが顔を蒼白に染めて詰め寄る。 スカリエッティはその剣幕にいささか目を丸くしたかと思えば、また嘲笑めいた苦笑を浮かべた。 「いやいや、そんなに心配する事じゃあないよチンク。たぶん彼は見ているのさ・・夢をね」 「・・・夢?」 「ああ。しかし興味深いねぇ、死んだ人間はいったいどんな夢をみるんだろうか」 スカリエッティはそう言いながら心底興味深そうに眠りに付く死人をモニター越しに眺めた。 チンクはそんな産みの親にまた鋭い視線を向けるが、彼はお構い無しに好奇の目をグレイヴに向け続ける。 そのスカリエッティにウーノがおもむろに口を開く。 「ところでドクター、オットーやディード、それにルーテシアお嬢様は確認できるのですが・・・やはりトーレの生体反応をトレースできません。作戦撤退からの経過時間を考えるとやはり・・・」 「ああ。死んだんだろうね」 まるでさも当然の事のようにスカリエッティは答えた。 その言葉には一切の感情が込められてはおらず、一片の淀みも無く言い放たれた。 チンクは思わず眉を歪めて苦々しげな表情になる。 確かにトーレの生存は絶望的だ、帰還したセッテの話や混乱した状況から収集した情報を元に判断すればそれが当然だった。 それでも姉妹の死を受け入れたくないという思いは強かった。 「ドクター・・一つよろしいですか?」 「ん? なんだいチンク?」 「トーレの事は・・・他の姉妹にはまだ伏せていても良いですか?」 「まあ別に構わないよ、結果がどうあれいつかははっきりする事だ」 「ありがとうございます・・・・ドクター」 呆気なくとれた了承にチンクは安堵した、これで姉妹も彼も少しの間・・・本当に少しの間だろうが悲しまずに済む。 隻眼の少女はその小さな胸の内に仮そめのやすらぎを感じた。 場には少しばかりの沈黙が流れる。だがそれを打ち破るようにけたたましいアラームが鳴り響く。 緊急通信回線が繋がった事を伝える警報音が空気を震わせる、モニターは自動的に通信相手を映し出した。 「これはこれは・・・しばらくぶりだねえ」 『そうだな。ところで今、お前の施設のメインハッチの近くに来ているのだがな・・』 そこには太目の体系にヒゲを蓄えた中年の男。 管理局中将にして今回の一見の黒幕、レジアス・ゲイズの姿があった。 「ああ、すぐに開けよう。お茶でも用意しようか?」 『いらん』 「そうかい」 聞くだけなら単なる会話にしか聞こえないがスカリエッティとレジアスの視線には明らかに敵意や警戒が含まれていた。 まあ、先の地上本部襲撃の件を考えれば無理からぬ事だろう。 会話はそこで打ち切られ、モニターはまた静かに眠る死人へと戻った。 スカリエッティは視線をウーノへと向けて口を開く。 「ではハッチを開けてくれウーノ。ああ、もちろんレーダーや魔力スキャンで周辺の警戒も忘れないでくれ」 「よろしいのですか? このタイミングであの男が現われたというのは・・」 「間違いなく先の一件が絡んでいるだろうね。だがここは私の城だよ? もしもの時は暴力的に解決させてもらうさ」 スカリエッティは自信をもってそう言うと、手にグローブ型デバイスを装着。 宙に展開したモニターで施設内に投入可能なガジェットドローンの起動を開始する。 「クアットロを呼んでくれ、あの子のガジェット運用と幻影が必要だ」 「了解しました」 「よし、ではチンクは下がりなさい」 「なっ!? ですがドクター・・・」 「君はこの前の戦闘での傷をまだ修復できてないだろう? 他の姉妹と待機していたまえ。それに・・」 スカリエッティはそう言いながらモニターを展開して訪れた客達を映し出す。 そこにはレジアスを含めた奇妙な男達が4人ほどいた。 「魔力量もほとんど無い人間が4人。遅れを取る相手ではないさ」 彼のその言葉にチンクは渋々ながらも指示に従い下がった。 だがスカリエッティは知らない、今回の事件にて現れた謎の怪人“オーグマン”を操り管理局に反逆する者こそがレジアスであり。 彼と共にいる者の一人である死人、ティーダがトーレを殺したという事。 そしてその彼らと共にいる残る2人がGUNG-HO-GUNSという名の超異常殺人能力集団であると事を・・・ 続く。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/149.html
タカヤはどこかベッドの上で目を覚ました。 見慣れない場所。だが恐らくどこかの病院だろう。 まさかまだこれほどの設備が揃った病院があったとは、タカヤにとっても軽い驚きだった。 ん?ちょっと待てよ……「これほどの設備が揃った」? どういうことだ?いや、それよりも…… 「ここは?……俺は……誰だ……?」 タカヤは起き上がり、一人呟く。確か……自分は…… 過去の記憶を少しずつ思い出していく。 木星へと旅だったアルゴス号の中、ラダムのテックシステムに自分の家族達が取り込まれる。 父は最後の力を振り絞り、自分を助け、そして自分は『テッカマンブレード』となり地球に降り立った。 そして取り込まれた家族や友人達はラダムの『テッカマン』として肉体を改造され…… 「……ラダムッ!」 思い出せば思い出す程憎悪が込み上げてきた。タカヤは憎き敵の名を呟き、拳をにぎりしめる。 そうしていると、この病室のドアが開き、二人の子供が入って来た。一人は金髪で髪をツインテールにした少女。 もう一人は黒髪で、少女よりも少し大人びた雰囲気の少年だ。 「あ……もう、大丈夫?。」と、金髪の少女が話し掛けてくる。 「……お前らは?」 「それはこっちの台詞だ。キミこそ何者なんだ?」 タカヤは二人に質問するが、逆に少年に聞き返されてしまう。 「……わからない……。」 「何?」 「何も思い出せない。俺が誰なのか……」 タカヤは少年に記憶喪失だと偽る。いや、本当は覚えているが、言いたくないのだ…… 「え……つまり、記憶喪失って事?」 「……そうみたいだな。」 少年は「はぁ」とため息をつきながら言った。 第1話「天駆ける超人」 アースラ、艦長室。 「私が艦長のリンディ・ハラオウンです。あなたは……記憶喪失なんですって?」 「……ああ。」 「そう……。ではあなたが何故ここにいるのか、その経緯もわからないかしら?」 「気付いたらここにいた。」 「……そう。」 リンディは何を聞いても「わからない」の一点張りのタカヤにため息をつく。 「じゃあ……これに見覚えはあるかしら?」 「これは……」 そう言いリンディが差し出したのは、緑のクリスタルのようなもの。 これはテッカマンに変身するために必要なシステムボックス。タカヤはそれを受け取り、眺める。 「悪いけど、このクリスタル、私達で調べさせてもらったわ。」 「何?」 「これはデバイスに近いみたいだけど、どうにも構造がわからない謎の物質みたいなの。これもわからないかしら?」 「……。」 タカヤはデバイスという単語が気になったが、余計な事は言わない方がいいと判断した。 「……まぁ、一応あなたのモノっぽいからあなたが持ってるといいわ」 リンディはクリスタルを見ながらそう言う。……まぁ、もし返してくれなければ奪うつもりだったが…… 「で、あなたの体についても色々と気になる点があるの。」 「…………。」 「……って言っても、記憶が無いあなたに言ってもわからないわよね……。」 そう言いこれ以上の言及を諦めるリンディ。タカヤはテッカマンだ。普通の人間と違っていてもそれほど驚くことはないだろう。 「……俺は……何故ここにいる?それにお前らは何者だ?」と、今度はタカヤが質問する。 「私達は時空管理局という組織の者です。あなたがここにいる理由ですが……」 その後タカヤは長々と訳のわからない話を聞かされた。どうやらどこかの次元世界で、次元振とやらが発生し、そこでタカヤは倒れていたらしい。 そしてタカヤの周囲にはその世界のモンスターの死体が転がっていたという。 それから一番信じがたいのが、魔法やデバイス、魔導師といったファンタジー系の話だ。 とりあえず、記憶が戻るまではこの時空管理局がタカヤの面倒を見てくれるらしい。 数分後、アースラ食堂。 ようやくリンディから開放されたタカヤは食堂に向かった。 そこには、さっきの子供二人と、大人っぽい女性が二人いる。 「私はフェイト・テスタロッサっていいます。」 「あたしはアルフ。フェイトの使い魔だよ。」 「僕は執務官のクロノ・ハラオウンだ。」 「で、私がオペレーターのエイミィ!よろしくね」 それぞれが自己紹介をしてくる。皆はタカヤに名前を聞きたがっているようだが、記憶喪失の男に聞いてもわからないだろうと、名前を聞きづらいようだ。 「あの……私達はあなたの事、なんて呼べばいいかな?」 フェイトが困った顔で質問する。 「……何でもいい。」 「じゃあ、Dボゥイってのはどうかな?」 「「Dボゥイ?」」 エイミィが「ひらめいた!」という表情でタカヤに言う。その場の皆も「は?」という顔をしている。 「うん♪デンジャラスボゥイの略だよ。一人であの化物達を全滅させちゃったみたいだし。なんか危険な雰囲気だし」 エイミィは笑いながら言う。特に他意は無い無邪気な表情だ ちなみに化物とはさっきリンディが言っていたモンスターと見て間違いないだろう。 「エイミィ……もうちょっとマシなのを……」 「いや……それでいい。」 「え?」 クロノがエイミィに突っ込もうとした時、タカヤ……いや、Dボゥイが割り込んだ。 「Dボゥイでいい。」 「「…………。」」 こうしてタカヤはDボゥイと呼ばれる事となった。これが、この世界でのDボゥイ誕生の瞬間である。 海鳴市、図書館。 八神はやてが車椅子に座ったまま少し高い場所にある本へと手を延ばす。 だが微妙に届かずに困っていた所、一人の少女が変わりに本を取ってくれた。 「これですか?」 「はい。ありがとうございます」 はやての顔が「ぱぁっ」と明るくなる。そして紫の髪をした少女にお礼を言う。 「実は時々見かけてたの。あ、同じくらいの年頃の子がいるなって」 「あ、実はうちもそうなんよ。」 二人は図書館の椅子に座り、話を始めた。同じくらいの年頃の女の子だから、という理由で意気投合したのだ。 「あ、私は月村すずか」 「うちは八神はやて。ひらがなではやて。変な名前やろ?」 お互いに自己紹介する。はやては少し笑いながらそんな質問をする。 「ううん!とってもきれいな名前だよ!」 すずかは自虐的なはやてを弁護する。本当にきれいな名前だと思ったのだ。 しばらくたって、すずかがはやての車椅子を押しながら出口へ向かうと、金髪の女性-シャマル-がおじぎをしてくる。 「もうここまででええよ」 「うん、じゃあ私はこれで」 はやてがすずかに言い、すずかもシャマルがいるからここからはついていかなくて大丈夫だろうと判断し、その場から立ち去った。 今度はシャマルがはやての車椅子を押して歩く。 「寒くないですか?」などと他愛もない話をしながら図書館を出ると、今度はピンクの髪をポニーテールにした女性-シグナム-がいた。 「シグナム!」 「はい。」 シグナム、シャマル、はやての三人は家に向かって歩き出す。 晩御飯の話や、材料の話など、いろいろな話をしながら。 「そういえば、ヴィータは今日もどっか行っとるん?」 「……。」 はやての言葉に少し困惑した顔をするシャマル。そこでシグナムが、「ヴィータは毎日遊び歩いてるから」と言い、なんとかごまかす。 「まぁザフィーラもついてるし、大丈夫でしょう。」 「そぅやなぁ。そういえば、シンヤはどないしたんやろ?最近夜まで帰ってこぉへん事よくあるけど……」 はやての言葉に今度はシグナムもシャマルも「うっ!」という顔をする。 「シ……シンヤ君も、年頃の男の子だし、色々あるのよ……ね、シグナム?」 「ん?……ああ。だがあまり主に心配をかけさせるものでは無い。今度私から言っておこう。」 「うん。お願いするわぁ、シグナム。」 シャマルとシグナムはなんとかこれもごまかすことに成功する。 「(まったく……主に心配をかけさせるなとあれほど言ったのに……)」 「(まぁまぁシグナム。シンヤ君のおかげでページの収集量が著しくアップしたんだから)」 「(まぁ……それはそうだが……)」 これはシグナムとシャマルの念話だ。はやてに聞かれる訳にはいかない会話等は念話で行われることが多い。 海鳴市、オフィス街。 「ぐぁあああ!」 路地裏から聞こえる叫び声。赤い装甲に身を包み、片手にランサー状の武器を携えた戦士-いや、悪魔といった方が相応しいか-『テッカマンエビル』と、それに倒された時空管理局員2名だ。 「フン……つまらないね。お前達なんか倒しても大した足しにはならないけど……」 エビルはそう言いつつも闇の書を開き、二人の局員から魔力の源である『リンカーコア』を抜き取り、闇の書の餌として与える。 そしてリンカーコアを抜き取られた局員達の悲痛な叫び声が再び夜の街にこだまする……。 「どこだ……?」 ヴィータはザフィーラと共に空中で強い魔力の持ち主を探していた。 最近ちょくちょく現れる強力な魔力の反応。あれを倒せば闇の書も一気に20Pは増えるだろう。 そこでザフィーラが「二手にわかれよう。」と提案する。 ヴィータはその提案に乗り、真っ直ぐに飛んでいく。 『対象、接近中』 しばらく飛んでいると、グラーフアイゼンの機械音が聞こえる。対象が近くにいると言うのだ。 一方、アースラ。 「艦長!海鳴市で空間結界が観測されました!」 「何ですって!?」 「……さっきから海鳴市がモニターに写らないんです!」 エイミィがリンディにそう報告し、ブリッジに複数のモニターが展開される。どれに写る映像も砂嵐だ。 「なのはさんは?」 「それもだめです!さっきからやってるけど、なのはちゃんとも連絡とれません!」 「そんな……。」 リンディは考え込む。今、アースラスタッフは別件で出払っているため、出動できる者はいない。 ならクロノやフェイト達は?これも無理だ。彼らは今、PT事件の裁判で判決待ちなのだ。 本局から局員を回してもらおうにも時間が掛かりすぎる。 リンディは「…………」と考え込み、万策尽きたかと思われた、その時…… 「俺が行こう……!」 ブリッジのドアの方向から声が聞こえる。 「「Dボゥイ!?」」 どうやらブリッジまで走ってきたのか、少し息切れしている。 クロノ達は前述の通り判決待ちだから、Dボゥイはアースラ個室で待機していたはず。突然の出現にエイミィもリンディも驚いている。 「……却下します。民間人であるあなたにそんな無茶はさせられません」 だがリンディはすぐに却下する。 「そんな事を言ってる場合ではないだろう。今あそこに向かえるのは俺だけだ……!」 「でも、Dボゥイ……あなた魔法は?」 今度はエイミィがDボゥイに質問する。確かにデバイスらしき物は持っているが、それはデバイスでは無い。 その体からは魔力らしきものも確認されたが、それも魔力とは違う何かだ。 「魔法など必要無い。」 「そんな無茶な……」 「それなら尚更行かせる訳にはいきません!」 リンディはさらにきつく言う。 「……頼む、行かせてくれ!俺は行かねばならないんだ!」 今度は真剣な面持ちでリンディに頼み込むDボゥイ。ここまでしなくともDボゥイならこんな戦艦一隻くらい破壊して脱出することもできる。 だがそれでは駄目だ。何故ならここは異空間だからだ。脱出したところで現場に向かえなければ意味が無い。 「……頼む!」 「……敵が魔導士でも……勝てる見込みがあるの?」 「ああ。俺は死なない!」 リンディはそこまで言うならとDボゥイに逆に質問する。 「はぁ……わかりました。そこまで言うからには、何かあるんでしょうね。」 Dボゥイの自信に満ち溢れた表情を見ると、何故か信じてみたくなった。リンディはため息をつきながらもDボゥイの出撃を許可する。 「……感謝する!」 「頑張ってね、Dボゥイ!」 エイミィもDボゥイに激励の言葉をかける。 Dボゥイは一瞬エイミィを見た後、転送ポートへと走る。その時、エイミィの目に写ったDボゥイの顔は、とても死ににいく男の顔には見えなかった。 「……ラダムッ!」 Dボゥイは転送ポートに入り、そう呟く。ラダム同士はお互いに引き合う性質を持っている。 海鳴市から感じる波動はまさしくラダムのものだ。 「(……ラダム!貴様らは俺が一匹残らず倒す!)」 Dボゥイはそう強く念じた……。 高町なのはは何者かが展開した結界と、こちらに向かってくる魔力に対抗するため、家を出てとあるビルの屋上に立っていた。 『来ます。』 レイジングハートの声。なのはは魔力が向かってくる方向を睨む。すると何かが高速でこちらに向かってくる。 『誘導弾(ホーミングボール)です』 「!?」 なのはは飛んできた誘導弾を防ぐために障壁『ラウンドシールド』を使う。 誘導弾一発なら、ラウンドシールドでふせげるだろう。そう思っていた。 だが誘導弾は予想以上の威力で、凄まじい衝撃がなのはに伝わる。 そして…… 「テートリヒ……シュラークッ!!」 誘導弾の方向から赤いバリアジャケットを身に纏った少女が飛んできた。 振り下ろされるハンマー、グラーフアイゼンを受けるために今度は右手でラウンドシールドを展開した。 「……っ!?」 だがこれも想定以上の威力。 なのはは吹っ飛ばされ、そのままビルから落下する。 「レイジングハート、お願い!」 『Standby ready』 なのはの掛け声に首にかけられたレイジングハートが呼応する。 そしてなのはの姿は変わっていく…… 「……この波動はまさか……ブレードか?」 エビルはこちらに向かってくる波動にテッカマンの力を感じた。 そのテッカマンが兄、タカヤことブレードである確証などどこにもない。だが本能がそう告げているのだ。 ブレードが来た、と。 「フフフ……そうか。やっと兄さんも来たんだね……。」 エビルはそう言い、「フフフ」と笑い始める。 「……クックック……アッハッハッハ!!今会いに行くよ、兄さんっ!!」 エビルはついには大声で笑いだし、ブレードが現れると思われる方向に向かって一気に加速する。 「いきなり襲い掛かられる覚えは無いんだけど!」 そう言いアクセルシューターでヴィータを追い詰めるなのは。まぁ、全て回避されているが。 「話を、聞いて!」 『divine buster』 なのはの言葉に聞く耳を持たないヴィータに対し、今度はディバインバスターを放つ。 放たれた桜色の光はヴィータをかすり、ヴィータの帽子を飛ばす。 そして飛んでいく帽子を見て、ヴィータの目付きが変わった。簡単に言うと、キレた時の目付きだ。 「……こンのやろぉー!!」 グラーフアイゼンを変型させ、カートリッジをロードさせる。 「ラケーテン……!」 ヴィータは変型したグラーフアイゼンを手に回転を始め…… 「ハンマァー!!」 一気になのはに飛びかかる。 なのははラケーテンハンマーをラウンドシールドで受けるが、凄まじい威力に障壁を破壊されてしまう。さらには障壁を貫き減り込んだグラーフアイゼンがなのはのバリアジャケットにヒットする。 「きゃぁぁぁぁああああ!」 なのははそのまま吹っ飛ばされ、ビルの窓ガラスを破り、倒れ込む。 ヴィータはゆっくりと床に転がるなのはを追い詰める。 一方なのはは障壁を破られた上にバリアジャケットの装甲まで貫通され、魔力も大幅に削られているため立ち上がることすらままならない状態だ。 ヴィータはグラーフアイゼンを構えゆっくりと歩いてくる。それに対抗し、震えた手でチカチカと点滅するレイジングハートをヴィータに向ける。 「(こんなので……終わり……?)」 なのははぼやける視界に映るヴィータを見ながら思った。 そしてなのはの目に映るのはグラーフアイゼンを振り上げるヴィータの姿。 「(嫌だよ……ユーノ君……クロノ君……フェイトちゃん……!)」 なのはがヴィータの攻撃に目をつむろうとしたその時- 「テックランサァーーーッ!!!」 遠くから聞こえる叫び声。 「!?」 「なんだ!?」 なのはとヴィータは声の方向を向く。ヴィータにとっては背後だ。 その方向から物凄い速度で何かが飛んでくる。 それもそのはずだろう。テッカマンは超音速を越えた速度で空を駆け、核兵器にも耐え得る体を持った超人なのだから。 そしてヴィータはそれを知っていた。 「なっ!まさか……!白いテッカマン!?」 「う……テッカ……マン?」 なのははヴィータが言う『テッカマン』という言葉に反応する。聞き慣れない言葉だ。 そして次の瞬間には白いテッカマンはヴィータの眼前にいた。手に持つランサー状の武器、『テックランサー』をヴィータへと構えて。 「(……白い……魔神……)」 なのははその白と赤の装甲を身に纏った戦士を見てそう思った。 白き魔神、テッカマンブレードの復活である。 「白いテッカマン……何者だ、テメェ?」 「…………。」 ヴィータはテックランサーを突き付けられながらもブレードを睨み付ける。 そしてその直後、なのはの周囲に魔法陣が現れる。 「なのは……遅れてごめん。」 現れたのはユーノとフェイトだ。ユーノはなのはの後ろでなのはに右手をかざしている。 「ユーノ君……フェイトちゃん……」 一方、フェイトはバルディッシュをヴィータに向けている。 「なんだテメェらは……こいつの仲間か?」 『サイズフォーム』 フェイトはバルディッシュをサイズフォームへと変型させる。「ガシャン」と音をたて、魔力の刃が鎌の形を形成する。 「……友達だ。」 フェイトはマントを翻し、バルディッシュを構える。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/akisuteno/pages/34.html
魔法少女リリカルなのはStrikers 高町なのは フェイト・T・ハラオウン 八神はやて SP:127 能力 コマンド 消費 SP:124 能力 コマンド 消費 SP:128 能力 コマンド 消費 性格:普通 格闘140 集中 15 性格:冷静 格闘152 直感 20 性格:普通 格闘137 集中 10 射撃153 直感 20 射撃146 迅速 20 射撃152 分析 20 防御110 狙撃 15 防御 99 集中 15 防御 98 直感 20 成長:普通型B+ 技量181 てかげん 1 成長:普通型B 技量181 突撃 30 成長:普通型B 技量181 直撃 30 回避174 魂 50 回避179 魂 50 回避172 友情 35 命中178 愛 65 命中175 絆 55 命中181 期待 60 スバル・ナカジマ ティアナ・ランスター SP:126 能力 コマンド 消費 SP:119 能力 コマンド 消費 性格:強気 格闘151 加速 15 性格:普通 格闘139 必中 20 射撃138 集中 15 射撃151 努力 15 防御104 不屈 10 防御 97 狙撃 15 成長:晩年型A+ 技量173 闘志 30 成長:晩年型A+ 技量175 集中 15 回避172 気迫 50 回避170 熱血 35 命中173 魂 55 命中177 かく乱 55 エリオ・モンディアル キャロ・ル・ルシエ SP:121 能力 コマンド 消費 SP:127 能力 コマンド 消費 性格:普通 格闘146 集中 15 性格:普通 格闘129 分析 20 射撃136 必中 25 射撃145 応援 35 防御103 気合 30 防御101 信頼 20 成長:晩年型S 技量167 突撃 30 成長:晩年型A+ 技量165 直感 20 回避171 不屈 15 回避166 直撃 35 命中171 勇気 60 命中173 覚醒 70 隊長たち3名は、能力的にはガンダム系のエースパイロットに似た設定にしている。 フォワード4名は才能あふれる新人として、全員大器晩成型の成長タイプにした。。 なのはに関しては、フォワード人の教官としての立場や模擬戦から、てかげんを導入。 愛を習得させるか不屈を習得させるかで迷ったが、彼女の本来の優しさを表すために愛で決定した。 防御系魔法と、元々の素質から防御値は高くした。 射撃値の大きさや命中値、コマンド等から、高機動・射撃戦主体のキラと似たスタンスになっている。 (没となったコマンド 不屈・激励・直撃) フェイトは格闘戦メイン、ライオットザンバー等の武器から突撃を採用。 なのはよりも高機動な為、迅速を所持している。 遠距離戦もこなす為、なのはに比べて全体的なバランスは良い。 最後のコマンドの絆は、無印からの引用。 愛はなのはに譲った。 (没となったコマンド 気合・愛・友情) はやての能力値は広域魔法による殲滅戦をモチーフにしている。 格闘値については、本人が接近戦を捨てているため極力低くした。 SSランク魔導師だが、なのは達に比べて実戦経験がそこまで多くないので、技量値は同じになった。 Asの頃の設定を残し、絆を取るか友情を取るかでフェイトと比べたが、現在はこれで安定した。 彼女の家庭的な優しさから、こちらの方がしっくりくるかもしれない。 (没になったコマンド 絆・覚醒) スバルは、戦闘機人としての能力は反映されていないが、格闘主体としての能力を色濃く設定した。 射撃値は、ディバインバスターがあるが遠距離砲撃とは言い難いので、低く設定した。 ウイングロードがあるので加速を設定。他のキャラにも使えるので、追風でもいいかもしれない。 戦闘機人としての〔覚醒〕は、気迫と闘志に代わりオミットされた。 (没になったコマンド ド根性・気合・突撃・覚醒) ティアナは、本人が認めている努力を軸として設定している。これは彼女という存在の最低条件でもある。 凡人と言っているがそんなことは無い。 最初のコマンドを、集中か必中かで迷ったが、二丁の銃を扱いこなす素質から必中になった。 幻術使いでもあるので、かく乱を設定した。 (没になったコマンド 根性・ひらめき・信頼・直撃・突撃・) エリオは唯一の少年キャラであり、ガリューに恐れず立ち向かったキャラの為、必然的に勇気を覚える。 子供の為、一般的なキャラよりもコマンドの消費は多い。 瞬発力は高いため、フォワードで2番目に高い。 技量値は10歳の子供にしては高く設定した。 (没になったコマンド エリオは迷わず確定した。) キャロはサポートが主なので、他の3人に比べて能力は低い。 サポート関連として応援を所持している。 召還魔導師として、覚醒を設定した。 感応は、今作に登場しないリインフォースが担当するので設定しなかった。 (没になったコマンド 幸運・感応・集中)
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2957.html
リリカルガウザー プロローグ 「僕達は、虫けらじゃない!」 これは黒岩省吾がこの世界で他人から聞いた最後の言葉だった。 そしてそれはまだ背の伸びきっていない少年が言った、少年の父親を奪った自分への怒りを込めた言葉だった。 黒岩省吾、またの名をダークザイド最強の剣士・暗黒騎士ガウザーにとって、人間と言う生き物はちっぽけで愚かな、動物以下の種族でしかなかった。 常に私欲に塗れ、自分以外の他人を蹴落とし、愉悦と快楽ばかりを求め続ける。 現に自分の好敵手であった男は、そんな愚かな人間たちの本性を具現化し、自己中心的な最低の人間だった。 「こんな屑共が霊長類として世界に君臨し、我々ダークザイドがこそこそと人間共のラームを吸いながら社会の隅で生きていくしかないなど許せない。」 そう思ったからこそ黒岩は、人間社会征服の為に東京都知事となり、東京を国として独立させ、その皇帝に就任して弱い人間の淘汰と強い人間の選別を行おうとした。 まず東京を手始めに厳しい訓練を強制的に与え、身体能力が低く、訓練についていけない力の無い人々、をダークザイドの餌にして排除する。 そして残った強い人間達を奴隷とし、一生ダークザイドのために働き続ける労力として利用し、子供達にはダークザイド社会に適応するための教育を施す。 やがてはこれを世界中に広め、人間達は弱き者は滅び、強き者はダークザイドのために働き続けるダークザイドのための世界へと地球社会を変えようとしていた。 だが、その野望は好敵手であった光の戦士とその相方の緑色の戦士でもなく、自分が心の底から愛した女性でもなく、自分が見下していた人間の子供達に打ち砕かれた。 子供達が投げた手榴弾の爆風が、子供達が撃った銃の弾が、自分の身から生気を奪っていった。 ここでガウザーに変身すれば助かったのかもしれないが、出来なかった。 「僕達は虫けらじゃない」 自分が見下している人間の中でも、もっとも弱い立場にいるはずの子供達が、いづれは世界を統べるであろう皇帝となる自分を恐れずに立ち向かってきた事に驚き、そんな子供達が持つ力に興味を持ったからだ。 「撃ってみろ…その銃でもう一度俺を撃ってみろ!」 子供達のリーダー格であった少年に向かって黒岩は言った。 もし自分が撃たれれば、新しい何かが分かるかもしれない。 図書館で覚えた付け焼刃の知識ではなく、何かもっと実のある何かが分かるかもしれない。 自分の死の果てに見える物が知りたかった。 皇帝になることよりずっと重要だと思った。 少年は銃を撃った。放たれた銃弾は黒岩の胸を貫いた。 だが後悔は無かった。 むしろ自分が…皇帝が死と引き換えに握ったモノの事を思えば、死など安いものだと思った。 黒岩は残った力を振り絞り、付近にあった沼の中まで歩くと、今なお憎悪に満ちた目で自分を見る少年に向けて、自分に新たなモノを見せてくれた少年への感謝を込め、自分が今まで覚えてきた中で一番のお気に入りである薀蓄を語ろうとした。 「知って…知っているか!?世界で始めての皇帝は…皇帝は…」 だが、虚しくも言葉は続かなかった。 力を使い果たした黒岩は、水面の上に倒れ、そのまま沼の中へゆっくりと沈んでいった。 : 冷たい沼の底へと沈んでいく中、黒岩は三人の人物の事を思い出していた。 一人はダークザイドの同士であり、自分の秘書であるユリカ。 黒岩を心から愛し、狂信的とも言えるほど黒岩に尽くしてくれた女。 だが黒岩の表面的な強さだけを愛し、内面を分かってくれなかった哀れな女だ。 彼女は黒岩が向かうはずだった皇帝の王座の前で永遠に黒岩を待ち続けるだろう。 例え黒岩がもうこの世にいないことを知っても、何十年も何百年も、死んで骨となっても、永遠に黒岩を待ち続けるだろう。 いつか黒岩が王座に座り、皇帝となる姿を幻視しながら… 黒岩は初めて、この哀れな女に「すまない」と、心の中で謝った。 もう一人は涼村暁、またの名を自らの宿命のライバル・超光戦士シャンゼリオン。 この男と自分は水と油だった。 この男は学も無く、女好きで、毎日毎日楽しいことだけを求め続ける煩いだけの奴だった。 こんな男が自分の最大の障害になっていると思うと、頭から湯が出る思いだった。 だが、感じたのは不快感だけじゃなかった。 黒岩は暁を厄介に思うと同時に、どこかで彼と戦うことに生きがいのようなものを感じていたのだ。 そして、なぜ自分が彼に勝つ事が出来なかったのかも今なら分かる。 暁は最低な人間ではあったが、黒岩には無いものを持っていたからだ。 それは仲間だ。 彼には仲間がいたから、どんな辛い状況に陥っても立ち上がったし、たった一人でダークザイドと言う凶悪な敵たちと戦い続けることが出来た。 黒岩は以前彼が放った台詞をふと思い出した。 「てめぇらに俺のライバルである資格は無ぇ!!」 暁の秘書・桐原るい(この時はまだ秘書ではなかったが)が暁のために作ってきてくれた弁当を闇魔人アイスラーに踏み潰されたとき、暁が黒岩・ガウザーと闇将軍ザンダー、闇貴族デスター、闇魔人アイスラーの四人に向かって叫んだ台詞だ。 彼は怒りを滾らせて戦い、四人を圧倒した。 このことからも、仲間が与える力と、そんな仲間を傷つける悪を憎む心が大きな力を与えることが分かる。 信頼できる仲間を持たず、一人で覇道を突き進もうとした黒岩が暁に勝てるはずが無かったのだ。 「(本当に…俺にお前のライバルである資格は無かったな)」 黒岩はこの時、暁という人間の大きさ、自分と言う物の小ささを理解した。 同時に、今ここで死ぬことに後悔はないが、できるなら彼に倒されたかったと心で思った。 最後は、自分が真に愛した女性、南エリ。 彼女と黒岩は恋人同士だった。 共に愛し合い、唇を交し合った仲だった。 黒岩がユリカではなく、エリを選んだのには理由があった。 ユリカが自分の圧倒的な強さに惚れ込んだのに対し、エリは自分の内面の弱さをしっかりと見つめ、愛してくれた女だったからだ。 付け焼刃の知識を自慢し、他人を見下すことしか出来ない自分の脆さを理解してくれるエリを、黒岩は真剣に愛した。 だが、二人は人間とダークザイド、正義と悪という種族と立場の違いからお互いの仲を裂いた。 だが、彼女への未練は捨てることが出来なかった。 おそらく彼女もそうだろう。 だから自分の死は、自分のためにもエリのためにも、過去の束縛を断つために必要なことだと思えた。 「エリ…どうか…幸せに…」 黒岩は薄れ行く意識の中で、彼女の幸福を願い、瞼を閉じた。 ∴ 「う…ん?」 太陽の暖かさと小鳥のさえずりを耳にし、黒岩は目を開けた。 「まさか、天国…なのか?…う!」 初めは極楽浄土かと思ったが、違うようだ。 服は濡れ、胸に銃弾の傷が残っている上に、上半身を起こそうとすると激痛が走る。 どうやら生きているらしい。 「まったく…我ながら丈夫なもんだ…」 起きることができないため、黒岩は寝たまま首を動かして周りを見回してみた。 どうやら自分が倒れているのはコンクリートの上のようだ。 周りには木が植えてあり、建物の壁と古風な作りの出入り口、窓が見える。 建物がかなりの大きさのようであるため、おそらくここはどこかの施設の庭だろう。 だがなぜ自分はここにいる?それに自分は死んで沼に沈んだはずだ。それがなんでこんな庭園に? 黒岩が自分がここにいる理由を考えていると、「大丈夫ですか!?」という女性の声が聞こえた。 ほどなくして、桃色がかった赤い短い髪の、ローブを着た女性が黒岩の傍にやってきた。 「凄い血…大丈夫ですか!?しっかりしてください!立てますか!?」 「あ…あんたは…?」 黒岩はまだ知らなかった。 自分がこれから辿る数奇な運命を… 予告へ 目次へ 一話Aへ